- 作者: 吉見俊哉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/07/21
- メディア: 新書
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一方で、このように歴史を中心に話を組み立てていることもあって、「知のメディア」という大学観における、そのグーテンベルク以後のあり方への言及なんてのはあるものの、まさにそれ以来のメディア激変期ともされるネット時代のありようについては基本的にはあまり触れられていません。
また、まあ一つだけ指摘させていただくなら、著者が「一九三〇〜四〇年代の最も創造的な知」に深く関わるとした「唯物論研究会」が、「その系譜的遺産が大学から切り離されたままで、戦後へも継承されていない」とこの本の中では述べられていま須賀、まさにその戦後の混乱期、研究会のメンバー三枝博人が校長となり、鎌倉の寺院を校舎に「鎌倉アカデミア」という教育の取り組みがなされました。大学としてスタートしたものではなく、資金難などで5年に満たずに解散してしまいましたが、鎌倉文士の高見順などが教鞭をとり、卒業生として山口瞳やいずみたくらを送り出しています。この知は、エスタブリッシュメントとしての「大学から切り離され」その「戦後へも継承されていない」と言えるのかもしれませんが、まさに著者が述べているように、中世の大学が都市から都市へと移動する知識人集団をルーツとしており、またそうし得ることが「大学の自由」を基礎づけているとするなら、「鎌倉アカデミア」的な知や「大学」のあり方をも、この本全体の議論の中に位置づけていくことは有益なのではないでしょうか。