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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の政治を、省庁が社会の利益を反映しそれを各大臣が代弁する「省庁代表制」「官僚内閣制」という側面から分析し、議院内閣制の強化から大胆な政治的決断を可能にする「権力核」の確立を目指すことを説いた本です。日本や諸外国の官僚制や、政府と自民党の「政府・与党二元体制」など、日本の統治機構を論じるのに不可欠のテーマが平明に述べられていて、評価が高いのもうなずける一冊です。
ただ、個人的には非常に納得のいかない点が一つあります。それは、日本そして諸外国の政党機構やその社会との関係について、十分に触れられていないことです。著者はリクルート事件以降の「政治改革」の流れで、権力核としての内閣総理大臣指導力が発揮される素地が整いつつあるとした上で、マニフェスト選挙を徹底させる、すなわち「政党・首相候補・政策」の三点セットを選ぶ選挙が定着することが権力核の強化につながる、としています。しかし、そのマニフェストを発信するためには何が必要で、何が障害になっているのか*1について日本の現状に即して分析しなければ、「日本の政党のマニフェストなんて羊頭狗肉で、これまでの選挙公約と変わらないじゃないか、もっとちゃんとやれ」と言っている野党やマスコミと大して変わらないように思えるのです。いやこれはそう指摘することがダメだとか言ってるんじゃなくて、言ってしまえばそれとはまた違う役割を私はこの本に期待したのになあ、ということでしかないんですけどね。
この本は安倍晋三元首相(笑)が参院選で惨敗する直前の、2007年6月に書き上げられています。その後現在にまで続く「ねじれ国会」についても示唆があり興味深いで須賀、参院選で現れ、また次の衆院選でも現れそうな「選挙の激情化」は著者の議論の中でどう位置付ければよいのでしょうか。有権者の激情がドラスティックな選挙結果をもたらすことについては、メディア論のみならず広く現代社会の雰囲気を論じるようなアプローチからも迫れそうで、大部分がこの本の射程の外だということにはなろうかと思うので須賀、政党が先述の三点セットをうまくそろえて打ち出せるか、という意味ではつながってくるような気がします。となると好著だけに、その部分については残念でしたかね〜

*1:せめて政策軸の不一致くらい言及がほしかった