現場を離れて久しい新聞記者のブログ。 読んだ本の紹介や旅行記(北朝鮮竹島イランなど)が中心です。 

『代議制民主主義』(待鳥聡史)

代議制民主主義の歴史や課題、理論的な分類などを通じてその特徴を論じ、国政・地方政治を問わず根強い制度への疑問や批判に応答しようとした本です。歴史的には権力分立・抑制による権利保護を目指す自由主義と、平等な政治参加を目指す民主主義の経路依存的な結合が議会制であり、その「結婚」を支えた戦後和解体制の崩壊が現在の危機を招いている、というのが著者の現状認識です。また制度論的には、執政制度(議院内閣制か大統領制か)と選挙制度(比例性の高さ)が両者のバランスを大きく左右しており、制度改革などにで本人ー代理人の責任と委任の関係を調整することで、それを変えていくことができる、としています。
比較政治制度論として明晰な議論で、著者の言う通り「民主党が決められなさすぎたとしても、安倍政権が決め過ぎたとしても、個別の政権や政策への賛否を代議制民主主義の制度への態度に持ち込むのはおかしいよね」ということにもなるのでしょう。
ただ、日本の政治制度分析(1990年代以降の制度改革)についてはいくつか感想があります。まずは著者がこれらの改革を一貫性がないと評している点です。国政において衆院選挙制度の比例性を低めておきながら参院はそのままで、地方分権や司法制度改革に至っては「拒否点」を増やしているではないか、というのがその指摘なので須賀、それらが政治システム全体として捉えればそういうベクトルを持っていることはともかく、その個々の改革(特に司法制度改革)についての意義の評価も含めた上で全体のことを論じてもよかったのかなという気はします。
もう一点は、現行の小選挙区比例代表並立制についてです。本書の中では比例性の高い制度と低い制度のハイブリッドである、という整理に止まっていま須賀、制度論として語るべきことは果たしてそれだけでしょうか。『独裁者のためのハンドブック』(ブルース・ブエノ・デ・メスキータ、アラスター・スミス)によれば、「独裁者」*1は自分の権力基盤を維持するため、「少数意見に配慮する」などと称して(決定的な意味を持たないくらいに小さい)定数の一部だけを社会の諸勢力に比例的に配分することがあることを指摘しています。これは自分(たち)に敵対しうる勢力を分散させ、結果として相対優位を保つ効果があり、まさしくそれは孫子兵法で言うところの「敵は分散させ、味方は集中させる」であり、昨今の日本政治で使われる言葉では「一強多弱」なのであって、実は今の日本では、その効果がてきめんに表れているとも見えるわけです。まあこれは定数の配分や、比例に阻止条項がないといった制度設計による部分も大きいと思われま須賀、並立制の帰結の一つとして注意すべき点であるように思います。
衆参ダブル選のシナリオが公然と語られるようになってきました。この本の観点から言えば、比例性が異なる選挙が同時に行われるわけで、それによる「汚染効果」がどう出るかなど、これらの知見を踏まえた上で見ておくべきポイントは多そうです。

*1:引用する本においては、毛沢東やら金正日やら、先日我が国の首相と会談したムガベといった正真正銘の独裁者、よりはやや広義の用法です