代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)
- 作者: 待鳥聡史
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2015/11/21
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (20件) を見る
比較政治制度論として明晰な議論で、著者の言う通り「民主党が決められなさすぎたとしても、安倍政権が決め過ぎたとしても、個別の政権や政策への賛否を代議制民主主義の制度への態度に持ち込むのはおかしいよね」ということにもなるのでしょう。
ただ、日本の政治制度分析(1990年代以降の制度改革)についてはいくつか感想があります。まずは著者がこれらの改革を一貫性がないと評している点です。国政において衆院選挙制度の比例性を低めておきながら参院はそのままで、地方分権や司法制度改革に至っては「拒否点」を増やしているではないか、というのがその指摘なので須賀、それらが政治システム全体として捉えればそういうベクトルを持っていることはともかく、その個々の改革(特に司法制度改革)についての意義の評価も含めた上で全体のことを論じてもよかったのかなという気はします。
もう一点は、現行の小選挙区比例代表並立制についてです。本書の中では比例性の高い制度と低い制度のハイブリッドである、という整理に止まっていま須賀、制度論として語るべきことは果たしてそれだけでしょうか。『独裁者のためのハンドブック』(ブルース・ブエノ・デ・メスキータ、アラスター・スミス)によれば、「独裁者」*1は自分の権力基盤を維持するため、「少数意見に配慮する」などと称して(決定的な意味を持たないくらいに小さい)定数の一部だけを社会の諸勢力に比例的に配分することがあることを指摘しています。これは自分(たち)に敵対しうる勢力を分散させ、結果として相対優位を保つ効果があり、まさしくそれは孫子兵法で言うところの「敵は分散させ、味方は集中させる」であり、昨今の日本政治で使われる言葉では「一強多弱」なのであって、実は今の日本では、その効果がてきめんに表れているとも見えるわけです。まあこれは定数の配分や、比例に阻止条項がないといった制度設計による部分も大きいと思われま須賀、並立制の帰結の一つとして注意すべき点であるように思います。
衆参ダブル選のシナリオが公然と語られるようになってきました。この本の観点から言えば、比例性が異なる選挙が同時に行われるわけで、それによる「汚染効果」がどう出るかなど、これらの知見を踏まえた上で見ておくべきポイントは多そうです。