- 作者: 横山宏章
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/08/17
- メディア: 新書
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ただ、日中双方の相手国へのイメージを歴史的に探る部分の分析は非常にお粗末な、あるいは私にとって違和感のあるものでした。例えば岸信介が首相になったのは日本人が先の大戦での戦争責任を感じていなかったからだ、と言えるほど単純な話ではないですし、中国が経済発展によって「経済市場としての魅力を打ち出」すようになったことが、日本人に「高い文化と道徳の国を侵略したという文明的な負い目を」失わしめ、結果として「歴史認識として戦争責任の反省をする契機」をも奪った、という主張にいたってはまさに「お前は何を言っているんだ」と思わざるを得ませんでした。まぁ概してナショナルな精神構造や意識構造を分析するというのは、その方法論からして非常に困難を伴う*1というのも理解できますけどねw
それでもその分析の中から、日中のこの反感の応酬には種々の構造的要因が大きく作用している、ということを確認するのは可能だと思います。そしてそれを踏まえたうえで、「対決へエスカレートする危機を回避するシステムの構築を」目指すのは素晴らしいと思うので須賀、いきなり日中FTAってのは非現実的な上に得策でもない気がするんですね。話の流れとしてはそんな感じでした。
まぁあと一つ付け加えるならば、日本のアニメやらの大衆文化が与える影響についての言及がなかったのがやや残念でした。確かにそういうソフト・パワー的な議論を最後に持ってきて、「厳しい対立の中にも新しい共感は芽生えつつある」みたいな話の締め方をするのはベタベタなので須賀、意外とそういうのってバカにならないんじゃないかとも感じたので。
*1:丸山真男の『日本の思想』を読んだときにも感じたことではありま須賀