かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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2歳児とソウル男旅〜三日目・慰安婦像もデモに参加?

日本大使館慰安婦

遅く起きた朝は

三日目、つまり最終日はみんな揃って寝坊をかまし、チェックアウトはギリギリの午前11時。弾丸旅行で寝坊なんてもったいない!というご意見は至極尤もではあるので須賀、旅行中の時間を好きに過ごす*1というのも楽しみの一つだと思っています。逆説的かもしれませんが、これは子供と一緒に旅行するようになって、目一杯観光して回ることができなくなったからこそ至った心境かもしれません。独身で1人旅をしていた頃の私なら、確実にこんなことは言わないでしょうし、しないでしょう。
さて、この日のフライトは午後4時前です。常識的に考えれば、どんなに遅くとも午後2時までには仁川空港に戻っていないといけない。なのでそもそも遠出や時間のかかることはできない、と弱気な意味で高をくくっていたわけなので須賀、一つだけ、今回の旅行でしておきたいことを残しておきました。それは、日本大使館前にある慰安婦を象徴する少女像(いわゆる「慰安婦像」)を見てくることです。
有名なこの像についてごちゃごちゃ説明することは避けま須賀、日本政府に関する政治的メッセージを含むものがその在外公館の真向かいに設置されることは、その威厳の侵害防止を定めたウィーン条約に違反するとの指摘もあり、現に日本政府はその立場をとっています。私としても、像そのものというよりはそれが存在する空間全体の雰囲気をちょっと見てきたい。そんな考えで日程に組み込んだのでした。

慰安婦像を探せ!

地下鉄景福宮駅前で降り、光化門を通り過ぎて東へ。

近くの公園では法輪功をやっている人達がいました。てっきり近くに中国大使館でもあるのかなと思ったら違うんですね。その先にあるこちらのツインタワーに、日本大使館が入っています。

ちなみにこれは昨年7月、「老朽化による建て替えのために一時的に移転された」ものとされており、それより前に設置された慰安婦像はもとの場所に「残されて」います。迂闊なことにその辺の経緯(移転前はどこにあったか)を十分確認しないままに出発してしまったために、時間のない中で隣の安国駅にある日本大使館の公報文化院を見に回る羽目になってしまったので須賀、結局、現大使館のすぐ近くにかつての敷地があると分かり*2、慌ててそこまで舞い戻ります。
よく見るとテントのようなものが建っていて、何やら写真を撮っていますね。

ありましたありました。これです。
昨年末の日韓合意で、この像について韓国側が「適切に対処する」ことを約束するなど撤去に向けた動きもあることを受け、それに反対する学生たちが座り込みをしているそうで、恐らく彼らはそのメンバーなのでしょう。私達の姿を見ると「picture?」と写真撮影のための場所を空けてくれました。日本でも有名な像になりましたので、見に来る日本人も多いのでしょうか。


白い壁に囲まれているのがかつての敷地のようで、だとするとまさに、正対してじっと見据えているように見えます。

「逃げる」日本大使館

ちなみにこの壁の内側で何が行われているか、ということも物議を醸しているそうです。今年1月、敷地内から朝鮮王朝時代の建物の遺構らしきものが発見されたと報じられ、また5月には、掘った土を埋め戻している(=建て替え工事を中断した)との指摘も出ました。つまりそれは、日本側はこの場所に再び日本大使館を建て直すつもりがないということを意味しており、さらに言えば、その真の意図は韓国側が動かしてくれない慰安婦像から「逃げる」ことにあるのではないか、とまで言われているようなのです。
そもそもこの辺は景福宮の目と鼻の先ですので、何かしらの遺構が出てくるのはむしろ当然のことのような気がしま須賀*3、両政府の意図を含めて、今後どうなっていくのか気になりますね。日韓両政府ともに相手との関係を安定させたいが、「相手に譲歩した」という国内の反発も避けたい。そういう局面において、「相手への譲歩」と見なされるに違いない「像の撤去」をせずに「像が在外公館の威厳を損ねる」状況を解消する方法として、純粋に論理的には成り立ちうる解ではあります。ただ、もしこれが日本政府の主張するようにウィーン条約上の問題であるとするならば、その趣旨からすればどちら側にその状況を解消する責任があるかは明らかであり、その点転倒した解決策だと言わざるを得ないでしょう。もっと言うなら、もし日本大使館が今ある像の視線から逃げおおせたとしても、移転先*4や韓国内外の別の在外日本公館前に同様の像がつくられる可能性は否定できません。むしろ、「日本が慰安婦問題から逃げた」と見なされれば、その可能性は高まるでしょう。日韓基本条約をその名の通り基本にしつつも、従軍慰安婦問題の根本的・人道的な解決を目指すことが重要なのであって、「像からも問題からも逃げる」という姿勢は取らないでほしいものです。

あ、あと一つ。少女像の左胸の辺りにシールが貼られていますね。ちょっと飾り文字っぽくて分かりにくいので須賀、「朴槿恵退陣」と書いてあるようです。彼女も昨晩のデモに参加したのでしょうか。というのはともかく、保守政権批判と日本批判は韓国では親和的な主張とされていますので、これも偶然のことではないのでしょう。

巻きで帰国

この先はちょっと急ぎましょう。昼食はサムゲタンという了解はありまして、近場に「盧武鉉大統領御用達」だった店があるとのことでタクシーで向かったので須賀、「この先だよ」と降ろされたところが結構違っていたので時間の都合上断念。12時半ごろに近場の食堂に駆け込み、冷麺やらおこげのお粥やらをいただきました。どちらも優しい味でおいしかったです。
しかし実は、堪能している余裕もあまりないんですね。食べ終えた時点でフライト3時間前。シビレル展開、というよりも、非常事態に近いかもしれません。「帰りはA’REXの特急に乗ろうか」なんて話していたので須賀、ここはやむなく再びタクシーへ。「仁川空港へ」と言った口調から危機感を読み取ってくれたのか、本当にちょうど1時間で空港着(約48000ウォン)。空港では長男も一安心したのか、おむつ替えの機会もありました。これは外でやるのは特に大変なので須賀、便秘気味であることの心配の方が冗談抜きで100倍大きいので、この時は正直ちょっと安心しました。まあおかげでお土産が買えなかったんですけど、韓国の空港の土産物屋はアホみたいに高い*5ので、時間があってもなくても同じだったと思っています。
最後は行程も記述も慌ただしくなりましたが、男3人、無事こうして機中の人となることができました。
<糸冬>

あとがき

いきなりの池上批判

「週末ソウル!」とか言いながら、結局見に行ったのは朴槿恵退陣デモと日本大使館前の慰安婦像という極めて政治的に「刺激的な旅」(友人談)になってしまいました。2日目は水原の代わりに江華島という案もあったので、そうなっていればますますその度合いを増したかもしれません。
同じようなことを2回言っても仕方がないので、補足的に一つだけ。先日、たまたま職場で見たテレビ番組に池上彰氏が出ていて、昨今の韓国情勢を扱っていました。その番組では、韓国でデモがここまで盛り上がっているのは、歴史的に何度もデモが繰り返された結果、民主化が実現したという「成功体験」があるからで、二匹目のどじょうを狙う市民の態度は民主主義国家として未成熟である、と「解説」されていました。
これを聞いて笑ってしまったので須賀、もし前日の該当箇所をご覧いただければ分かるように、「デモが大規模化した理由」についてこの「解説」と私の考えは完全に一致しているにもかかわらず、そのことへの評価はほぼ真逆になっています。韓国のデモは狙った大統領の首を取りつつあるようで須賀、不正疑惑に怒った市民が街頭デモを繰り広げて大統領を退陣させられる国と、違憲の疑いもあり反対意見が強かった法案を与党が力任せで通してしまった上、ロクに審議をしないままの強行採決が繰り返される国のどちらが民主主義国家として未成熟であるかについて、私は争う余地はないと思います。内心の自由があり、それを表現する自由があり、どんな政治を望むか、どんな政治的判断をなすべきかという議論がある上に代議制民主主義の制度が乗っかっているのであって、言うなれば市民の世論や直接行動も政治制度に組み込まれています。もし制度上の政治過程に乗っていないものは未熟だと言うなら、それは民主主義に対する無理解を告白するようなものであって、以前「官邸デモはテロリスト」云々と発言した与党政治家と大差ありません。池上彰氏が頓珍漢なことを言っているのを見るのは初めてではないのでもうこの辺でやめておきま須賀、これについて問題にすべきは日本の方である気がします。

己の欲する所…

話がずいぶん逸れてしまいましたが、帰ってきた夜の話をしましょう。
私と長男は、同じく帰宅途中だった細君と家のすぐ近くで落ち合え*6、長男は無事、明洞で買ってきたお土産をママに手渡すことができました。
寝かしつけている時のことです。いつも最低30分はかかる難事業で、この日もなだめすかしつつ目を閉じさせていたので須賀、本当に寝付く直前、細目を開けて私を見つけると、こう言ったのです。
「パパとりょこう、たのしかったよ」
「旅行」などという言葉を使えたのは多分、直前にパパとママに何度もそう聞かれたからなのでしょう。行かなかった細君が気にするのは自然なことで生姜、何せ「刺激的な」旅でしたので、私も不安になって聞いてしまいました。それでも、本当にそれだけ言ってスースー寝息を立て始めるなんて、まるで作り話のように感じられましたし、よくない言い方かもしれませんが、ある種の免罪符を得たような気持ちでした。願わくば次は、そもそも免罪符をもらわずに済むように、より長男も楽しめる旅行を心がけたいものです。ありがとう、たのしかったよ。
そして細君。私と長男がいない間に、1人ならではの時間を過ごせたというのはその通りのようで、美容院に行ってエステに行って…なんて話を楽しそうに聞かせてくれました。ただ、私が想像したほど「1人だヤッホー!!」的な心情でもなかったようで、こちらが見聞きしたものや食べたものを、写真を見せながら説明する度にこう言われました。
「今度は一緒に行こうね」
私自身が1人でいるのが大好きなので、細君もきっと喜んでくれるだろう。そう思っていたので須賀、やはりそんなに単純なものではありませんでした。己の欲する所を人に施せばいいわけではない。旅行の主目的はあくまでも自分が遊びに行くことだったわけですけども、若干思い違いの部分があったことも分かりました。
これで終わりにしましょう。最後に述べるべきは、間違いなく一緒してくれた友人への感謝です。いろんな局面で手を貸してくれたのも非常に助かりましたが、一番助かったのは、一緒にいてくれたことだと思っています。「子供と2人だけではない」ということがいかに精神的に楽か、本当に思い知らされました。野郎2人と幼児で海外なんて、この人たち一体どういう関係なんだろうという反響もあったかと思いま須賀(笑)、まあ酒もちょびちょび飲めたし、このメンツで行けて楽しかったです。ありがとうございました。
毎度のことながら、長々と駄文を晒し失礼をばいたしました。今は未定で須賀、またどこかに行く機会があれば性懲りもなく書き始めることと思います。では!
(2016年12月5日 午後4時、自宅書斎にて)

*1:したいだけ夜更かしして酒を飲む!

*2:友人が「慰安婦像」と地図検索したらすぐ出てきたそうですw

*3:京都御所の近くを掘れば、恐らくどこかの時代の何らかの遺物が出てくるでしょう

*4:ツインタワーが複数国大使館の入居する「雑居ビル」である点は、巧妙な策ではあると思いますけれども

*5:仁川、金浦、済州と揃いも揃ってそうだったので、こう言い切ってしまっていいと思います

*6:別に合流したって家に帰るだけなんで須賀