- 作者: 五味洋治
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/04/20
- メディア: 単行本
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全体を通じて興味本位でも十分楽しめる本だったので須賀、一つ挙げるべきは、先述した分析レヴェルというより実態として「宮廷」に住まう(った)人たちが持つ影響力の大きさでしょう。一定以上の公的役職を持っていた金敬姫(金正日の妹で張成沢の妻)、金オク(金正日の晩年の秘書かつ妻)、金与正(金正恩の妹)らのみならず、役職ははっきりしないというが父・金正日の遺書を書いたとされる金雪松、著者が政策決定への関与を示唆する高容姫(金正恩の母)…。名前を挙げた女性を含む登場人物の活動を見るにつけ、まさに北朝鮮の「リアル宮廷」と呼ぶべき場所に権力が集中してきたさまを窺い知ることができます*2。北朝鮮分析における「宮廷」の位置づけについてもっとしっかり考えなければならないというのはこの本から得た知見でありますし、それすらも古代の則天武后らの例を挙げるまでもない自明な事柄なのかもしれません。つまり、これまた著者が指摘するように30代半ばにして健康問題を抱える金正恩の身にひとたび何かあれば、本当に則天武后さながらの権力を振るう女性が出てくるのかもしれませんし、「金王朝」支配が長く続くほど、その可能性は高まっていくでしょう…「民主主義」「共和国」を名乗る国家についての議論とは到底思えませんけども。