現場を離れて久しい新聞記者のブログ。 読んだ本の紹介や旅行記(北朝鮮竹島イランなど)が中心です。 

『実録・北の三叉路』(安宿緑)

実録・北の三叉路

実録・北の三叉路

朝鮮半島北部出身の父と、在日韓国人2世の母を持つ在日コリアン2世」で、「朝鮮大学校を卒業し…(朝鮮)総連の出版報道部門に在籍した後、退職後は日本の各媒体の編集、取材などを生業としている」著者(ライター安宿緑の北朝鮮ブログ/기자 안숙록의 조선(북한)불로그)が、その半生やたびたび訪れている北朝鮮での体験、現地での親族との交流などを綴った本です。
と言うと、あからさまに北朝鮮朝鮮総連を擁護・礼讃するようなトーンで書かれているのかと思いきや、さにあらず。『聖闘士星矢』をこよなく愛する自称・腐女子が、「日本の中の朝鮮学校に通う人たちは、そうした複雑なアイデンティティの問題に上手く折り合いをつける術を学校生活で自然と体得していく」*1という自身の見方通り、かなりの程度まで様々な立場に折り合いをつけて、相対化しつつ話を進めています。その意味では、わざわざ「『聖闘士星矢』をこよなく愛する自称・腐女子」と紹介したのも全く脈絡のないことではなくて、今更アマルティア・センでもないで生姜、一つそういうアイデンティティをも持っていることが、あらゆるものに対する良い「中和剤」になっているのかもしれません。
そこまで担保した上で言うと、ネタ的な言動や書きぶりそのものが結構笑えて面白かったですし、まさに悪いニュース(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160202-00050160-yom-soci)が出たばかりではありますけれども、朝大や総連という時には悪の巣窟のように言われる組織の内情の一端*2を垣間見ることもできて興味深かったです。それに加えて著者自身が、様々なアイデンティティやそれに関係したりしなかったりする問題のただ中で、本当に真摯に生きていることが、茶化した物言いの端々からも伝わってきて、彼女のその生き様自体がカッコいいなと感じたのも率直なところです。
読んでいて、思い出したこともありました。一つは私自身が竹島に行った時のことです。鬱陵島の風景も含めて、なんだかとても懐かしかったです。
もう一つは支局記者時代、いわゆる街ネタの取材先で出会った人のことです。幼稚園だったか保育園だったかで、朝鮮舞踊の公演が行われたのを見に行った時のことでした。朝鮮総連系の雑誌の記者という女性も同じ取材に来ていて、名刺交換がてら、少し話をしました。あちらから「朝鮮のことに興味がおありなんですか?」と聞かれたのはちゃんと覚えていて、私がここぞとばかりに「実は学生時代に北朝鮮に行ったことがあるんですよ」と答えたか、「ええ、不勉強ながら関心がありまして」くらいにしておいたかは定かではないので須賀、彼女の国の口から出た次の一言が、この本の一節を読んだ瞬間、まるでタイムカプセルを空けたかのように蘇ってきました。
朝鮮総連って言っても、多分イメージしてるのと違うと思うよ。雑誌送るから、よかったら読んでみて」
その後しばらくは、本当に送られてきたら読んでみたいと心待ちにする気持ちもあったので須賀、さすがに「雑誌送ってくれる話、どうなりました?」と聞くのも気が引け、またこちらからなんらかのアクションを起こすに不自然でないタイミングもどんどん遠くなってしまって、結局それっきりになってしまいました。まあ、その雑誌のサイトは割と簡単に見つけることができたんですけどね。

*1:表現は丸めてあります

*2:それが「内」とまで言い得ることであるかは知り得ませんけれども