- 作者: 渡辺浩
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2010/03/01
- メディア: 単行本
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もう一つは、安定的かつ(外国に対して)閉鎖的な泰平の江戸時代から、堰を切ったように開国・明治維新・文明開化へと突き進んだ近代日本の大転換が、思想的にどのように準備されたのかを構造的に見るものです。いわゆる開国はペリーに脅かされて厭々そうしたというだけの話ではなく、「理」と「徳」を兼ね備えているという西洋観をも土台に、彼らの要求を「道理」と認めたが故のものである。明治維新の中核を下級武士が担ったのは、国難に際して志ある者たちが立ちあがった、ということ(だけ)ではなく、武士でありつつ(平和だから)武を振るう機会にも恵まれず、そもそも世襲の武士であることへの自己肯定が困難*1で社会的な威信もなく、ついでにお金もなかった―という彼らの「自己と他者の改革と破壊への衝迫」ではないのか。そうしたことを、当時の「世相」を幅広く読み解きながら論じていきます。特に下級武士の社会経済的地位の低さが明治維新の土壌となった、という指摘は、日本陸軍と2・26事件との関係として繰り返されているようにも見え、心理構造を含む「世相」を踏まえることの意義をよく示しているように思えます。
ごくたまに「政治思想史」と題する議論に接する度に、「ある時代の社会における政治への考え方が、特別な知的エリートの思想によってどの程度代表されるのか」という疑問を抱いてきたので須賀、この本で行われているような二つの論じ方が共存してこそ「政治思想史」を名乗るにふさわしいと思いますし、もちろん前者抜きに後者を語ることはできないのだという(考えてみれば当たり前な)ことをも教えてくれる一冊でした。