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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『日本近代史学事始め』(大久保利謙)

 

日本近代史学事始め―一歴史家の回想 (岩波新書)

日本近代史学事始め―一歴史家の回想 (岩波新書)

 

 19世紀最後の年に生まれた日本近代史の大家・大久保利謙が、その半生を語った本です。

東京帝国大学五十年史』『日本学士院八十年史』『内務省史』『森有礼全集』などの編纂に携わり、特に戦後の混乱期、爵位や財産を失った旧華族家から流出しがちだった近代史史料などの収集に尽力。現在国会図書館にある憲政資料室の設立にも貢献しました。京都の経済学部生から転じた後、▽開国以降、西洋の文明をどう取り込んでいったか▽また歴史学自体がどのように発展していったかーという関心を持ちつつ、当時の様々な歴史学者らと関わりながら、平坦でない研究生活を送ってきたことを回顧しています。

 

と、それだけ言われてもあまりピンとこない…というご意見もあるかもしれませんのでご紹介しますと、著者は「維新の三傑」とされる大久保利通の孫にあたります。ですので幼少時代から大山巌に会ったことがあったり、荒木貞夫とのツーショット写真が残っていたり、叔父にあたる牧野伸顕と長い交流があったりしていますし、そうした家庭環境の証言自体も、近代史を紐解く上で重要なものになっています。また、史料集めの際も、華族(侯爵)としての交際があったことや「維新の三傑」の孫であった*1ことがプラスに働いたことは、著者自身も認めるところです。

ただその一方で、だから近代史をやったわけではなさそう(少なくとも著者はそう言っていない)、というところが、一つ興味深い部分でもあります。経済学への関心を持ちつつ、その時点では少し遠回りをして歴史の勉強をし直す。そうやって自ら選び取った道であるからこそ、90歳を過ぎるまで研究生活を続けられた*2のだろうと感じます。

私も案の定、著者の出自に関心を持ってこの本に手を伸ばした一人でありま須賀、回顧の具体的内容以上に、そういう著者の生き様に温かい気持ちにさせられました。

 

いつもありがとうございます。

 

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*1:内務省史』に関わったのも、初代内務卿との関係が作用しているようです

*2:この本が出版される前後に95歳で亡くなられました