かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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拉致問題を国内政治の「煙幕」にはしないで/「日朝合意」素描

北朝鮮、拉致包括調査を約束=政府、制裁一部解除へ―安倍首相「全面解決へ期待」
政府は29日、スウェーデンストックホルムで開かれた日朝協議で北朝鮮が日本人拉致被害者と、拉致された疑いがある特定失踪者について、包括的、全面的な調査を約束したと発表した。北朝鮮が特別調査委員会を設置する。一方、調査開始時点で日本側は、対北朝鮮制裁のうち(1)人的往来の規制措置(2)送金などに関する規制措置(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止措置―を解除する。
北朝鮮は2002年9月の日朝首脳会談で拉致を認めて謝罪。日本政府が被害者に認定した17人のうち5人は帰国したが、横田めぐみさん=失踪当時(13)=ら12人の安否は不明のままだ。日本側が働き掛けていた再調査で具体的な成果が上がり、被害者の帰国につながるかが焦点となる。
安倍晋三首相は29日、「拉致被害者の調査がスタートする。安倍政権にとって拉致問題の全面解決は最重要課題の一つだ。全面解決に向け、第一歩となることを期待したい」と記者団に述べた。
菅義偉官房長官は同日、先の日朝協議の合意事項を発表した。それによると、北朝鮮が日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明。調査状況を随時日本に通報し、生存者が発見された場合は帰国させる方向で協議する。
一方、日本は、北朝鮮に対する人道支援の実施を検討。日本側は「日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思」を改めて北朝鮮に伝えた。
菅長官はまた、調査の開始時期について、「今後3週間前後」との見通しを示すとともに、北朝鮮側が特別調査委の具体的な組織、構成、責任者について、日本側に通報することを明らかにした。北朝鮮側は、調査に合わせ、日本側関係者の北朝鮮滞在、関係者との面談、関連資料の日本側との共有―を行う。 
(5月29日、時事通信)

ちょっとバタバタしていて遅くなってしまいましたが、素描だけ。
まず拉致被害者家族が高齢化する中で、少しでもこの問題を前に動かそうとする努力には敬意を表すべきだと思います。ただ、この「進展」は美談としてではなく、国際政治の一つの結実として理解するのがより妥当な気がします。
素描なので素描らしく言うと(笑)、要するに北朝鮮問題を取り巻く主要な国際関係(≓六者協議)の中で「嫌われ者同士仲良くしようぜ」ということであり、何度かこのブログでもご案内の重村センセの振り子外交論の範疇で理解できる、北朝鮮の常套手段といえば常套手段です。日本は中国との間に、歴史・領土問題などとして表象されながらも地政学的には構造的とも言える根深い政治的対立を抱えており、政治的パートナー(同陣営)であるべきはずの韓国、あるいは(程度は違えど)米国とも、歴史認識の問題などで十分なパートナーシップを築けているとはあまり言えません。もっと言えば今回の日朝合意自体、「潜在的には日米韓の連携を乱しかねないもの」と見なされているはずです。
北朝鮮側としても、米国はあまり自分に構ってくれず、南北関係でも砲弾が飛び交っている。頼みの綱だったはずの中国とも、お互いに「代替わり」を経て「血盟」とまで呼ばれた関係も遠ざかっている印象です。この国際環境を打開したい、しかも親父のやったことだしオレのメンツはそんなに関係ないべ?というのが金正恩政権のスタンスのように見えます。
日本側のインセンティブについて語るなら、やはり安倍首相の政治的情熱に触れないわけにはいかず、それはそれで結構なことだと思いますし、それがここまで述べてきたような国際環境と合致したということでしょう。ただ、おそらく彼の政治的情熱というのには、ライフワークとしての拉致問題解決への思いだけではなく、「日本が独自性のある外交を展開し、イニシアティブをとりたい」という思惑も含まれるように見えます。それ自体も決して悪いことではないと思いますけれども、そこで欲目をかきすぎたり、策に溺れたりということがなければいいなあと切に願います。当然分かった上でやってると信じま須賀、「全面的な再調査の結果、前回の調査の正しさが証明されました」って言われてしまえば丸損ですからね。
あと、安倍政権がこの「成果」をなにやら国内政治的に「活用」しそうなニオイは個人的にちょっと感じています。「拉致再調査」を煙幕に集団的自衛権をやってしまおうとか、「内閣支持率の上昇は集団的自衛権に関する政府の説明が理解されつつある証拠だ」と言い張ってやろうとか、もし政権がそういう反動的策動(笑)に出るなら、それこそが拉致被害者やその家族への背信であると言わざるを得ません。