マンガ韓国現代史―コバウおじさんの50年 (角川ソフィア文庫)
- 作者: 金星煥,植村隆
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/02
- メディア: 文庫
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今ここに何かを書こうとする際一番障害になっているのは、新聞の4コマ漫画が、もっと言えば「コバウおじさん」という漫画が、その社会*1にとってどのような存在なのか、ということです。新聞の4コマ漫画が時事的なテーマを扱うというのはもちろんあることで、かつては「サザエさん」なんてのもそうだったわけで須賀、たとえばそれが社会のどんな意見や時代の空気を反映しているのかは、当然一概には言えません。たとえば「地球防衛家のヒトビト」は、割とそういう話題が登場する新聞4コマのひとつなんだと思いま須賀、そこで展開されているのはどちらかというと作者独自の目線であり風刺であって、その時代の大きな雰囲気をそのまま反映したものとはちょっと違う。まあそこがあの漫画の面白さであり立ち位置であると思うので須賀、そのように考えて、じゃあまず先述の「サザエさん」はどうだったか。さらには「コバウおじさん」はどうなのか。自分の生きた社会の、自分の生きた時代の4コマ漫画を論じるのにこんなに奥歯に物が詰まったような物言いをしなければならないのに、そうでない時代、さらにはそうでない社会の過去のそれについてコメントするのは、並大抵の下調べではできないのではないでしょうか。そもそも私はあまり、新聞の4コマ漫画というものの熱心な読者ではないのでした。
そう考えると、著者がこの漫画を「一貫して庶民の声を代弁してきた」と評するのも、なんだか踏み込んだ発言のように思えてきます。漫画作者が民主化以前に当局の取調べを受けたり、北朝鮮の工作ビラに「コバウおじさん」が登場したりと、この漫画が韓国現代史においてただならぬ影響力を有してきたことは確かでしょう。しかし、影響力が大きいことと、庶民の声を代弁していることや権力の走狗であること、あるいは社会の雰囲気そのものに対する一種引いた視点がブリリアントであることなどは、議論のレイヤー(笑)が違います。これはスカラーとベクトルの違い、と言えばよいでしょうか。なので、これは著者に対する間接的な嫌味のつもりではないので須賀(笑)、この韓国の代表的新聞4コマから何らかを帰納的に導くことは、私にとっては手に余る、そして怖くて手を付けにくい作業であるわけです。
…ここまでの前置き的なエクスキューズが、なんとなくこの本の内容をも示唆しつつあるんじゃないかという希望的観測に基づき、なんとこれでレビューを終えてみようと思います。一応形だけ感想を述べておくと、韓国現代史を学ぶ上で意義ある本だとも思いますし、森喜朗氏の「神の国発言」など日本の天皇制に関するネタもあり興味深かったです。逆に言うと、日本で天皇や天皇制を風刺する漫画というのが、私にはなかなか思い浮かばないのです。
*1:コバウに関して言えば韓国社会