- 作者: 志賀直哉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/04
- メディア: 文庫
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18の短編が収録されており、当然受ける印象もそれぞれでした。それでも何か、ちょっとした偶然やボタンの掛け違いのようなことが地割れが開くように急展開していって、彼我の間に後戻りできない運命的な断絶が生まれてしまうさまを非常に鮮明に描写している作品がいくつかあり、つい引き込まれるようにして読んでしまいました。『佐々木の場合』は確かに筆者が言うような批評は当たっていると思う半面、佐々木の思いの純粋さを信じてもいい気がしますし、『赤西蠣太』はまさに思惑の違いによる裂け目がみるみる大きくなって最後まで目が離せません。『雨蛙』では夫婦間に生じた問題の展開にドギマギさせられますし、同様に夫婦をテーマにコミカルに書かれたものに『転生』があります。偶然が生死を支配する、という意味では『城の崎にて』もその範疇でしょうか。
夏目漱石が志賀直哉を評して「文章を書こうと思わずに、思うまま書くからああいう風に書けるんだろう。俺もああいうのは書けない」と言ったそうで須賀、そういうある意味ドラスティックな展開を短編で克明に描けるというのは本当にすごいことなんだろうと思いましたし、恐らく多分、漱石の言う通りに思うまま書いているからそれが出来るんだろうという気がします。三島由紀夫の『金閣寺』を読んだ時の印象とは真逆ですかね。