- 作者: 丸山真男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1961/11/20
- メディア: 新書
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やはりこの本は私にたくさんの「武器」を与えてくれます。一回目読んだときは「権利の上にねむる者」で当時の安倍内閣*1に批判的なことを書き、今年の終戦記念日には、思想の非伝統化を絡めて話を展開させてもらいました。また、思想批判の「伝統」としてのイデオロギー暴露という指摘は、私が時々ここで批判する「中の人」的思考、もっと言えば陰謀論的発想と重なるものと言っていいように思います。
ただ一方で、そういった日本の思想の「試図」を踏まえ、丸山が「思想が伝統化されない」現状を「主体の確立」によって克服すべきだ、と訴えていることも、当然無視してはならないでしょう。こうした丸山の指摘を今の状況に照らして考えてみると、社会の「タコツボ化」はますます進展しているように見えるし、もう70年代には「都会で自殺する若者が増えていることとかより、人に会いに行きたいんだけど今日の雨をしのぐ傘がないことの方が問題だ」みたいな話になってしまっているわけです。これが大ざっぱに言えば「大きな物語」の崩壊だったり、「共同幻想から対幻想へ」の流れだったり、今でいえば「動物化するポストモダン」だったりするのであって、当の東浩紀も丸山が「実感信仰」と「社会」の不在について言及した部分を引用し、「いまのセカイ系の流行は、いまだ僕たちが丸山の問題提起を脱出できていないことを意味しています…だとすれば、もはやこのグダグダの状態を所与の条件として、日本社会について考えるしかないのではないか」*2と述べています。
この対峙をどう理解すべきか、強大な国家権力の暴走とその結末を目の当たりにしてきた丸山には、東のようには口が裂けても言えないんだろうな…などと考えていると、あとがきで丸山が「私がしたかったのは日本の思想の構造の解明だけなんですよ」と言っているのが目に入り、とても梯子を外されたような気分になりました。確かに「思想を伝統化できるような主体を確立せよ!」という命題は、たとえば「消費税を全廃しろ!」とか「北朝鮮をいてこませ!」*3といった話とは全く別のレベルですものね。丸山からすれば「そんな抽象的な希望的展望を述べただけの箇所に食い下がらんでくれ」というところなのかもしれませんが、今、丸山真男という人間に対する一般的理解がそこにあることも事実です*4。丸山先生、「イメージの一人歩き」というのはこういうことを言うんですか?