かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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アイデンティティの心理学 (講談社現代新書)

アイデンティティの心理学 (講談社現代新書)

エリクソン森有正*1の研究・思索から、アイデンティティのあるべき姿について論じた本です。
タイトル通り、アイデンティティの問題が心理学でどう論じられているか紹介していないわけではないので須賀、どうしても「日本人は伝統的な社会規範に未だ引っ張られて、自己を確立できていない。社会の構造変化で人生における選択肢が増えた今こそ、出世コースを捨てて単身パリに乗り込み、思索を深めた森有正のようにとはいかなくても、(西洋的な)アイデンティティの確立を目指すべきだ」というフレームから問題を処理しようとしてしまっている感が否めなかったので、それなりの紹介の仕方をせざるを得ません。日本人は西洋人に比べて発想が封建的なのでもっと西洋化すべきだ、というのでは丸山真男から何の進歩もないわけで、(当時の)大学生や非婚主義の若者たちを説教したいって話なのかとも若干勘繰りたくなります。そもそも著者の言う「選択の時代」が訪れたのに、皮肉なことに「確固たる自分自身」なんてホントにあったんだっけ?って議論が出てきて困ったね、というのが消費社会をめぐる議論だったような気がします。
下手に日本論に手を出さずに、エリクソンで一冊書けばよかったのに、とつい思ってしまう一冊です。

*1:森有礼の孫で哲学者