かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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黒いスイス (新潮新書)

黒いスイス (新潮新書)

恵まれた自然環境や治安など、「いい国」イメージの強いスイスの「黒い」部分をえぐった本です。ロマ族の拉致や核計画、マネーロンダリングなど本当によく取材されているな、という印象です。
ただね、ちょっといいですか(ry ここで顕在化しているスイスの「黒さ」を振り返ってみると、ただの「悪い国」の悪行というだけでは掬いきれない意味があると思うんですね。それを評価すべきかという問題は別として、スイスがマネーロンダリングの温床になっている背景にあるのは、預金者の秘密を守る意識と、国家が国民を拘束しない=国民の「税金申告忘れ」を重く罰しないという主義であり、麻薬中毒者に麻薬を与えるのも、麻薬常用者は社会環境の被害者だという考え方*1からきているものです。もっと言えば、移民の帰化への住民投票第二次世界大戦期のユダヤ人入国制限などの排外主義にも、誰が自分たちのメンバーたるかは自分たちで決める、という意識が潜んでいる、と言うことはできるでしょう。その意味で、本当にざっくり言ってしまえば「スイスの暗部」ではなく、「スイスの原理主義性」みたいな部分を強く感じた一冊でありました。

*1:そう著者自身が述べているので須賀、その次のページで「勝手に麻薬に手を出した人間を民主社会がどの程度受け入れるべきか」という話になっているのはよくわかりませんでした