かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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キッチン (新潮文庫)

キッチン (新潮文庫)

まさかここで娘の小説を先にレビューすることになるとは、って感じの吉本ばななの代表作です。一冊に三篇の小説が収録されているので須賀、それらはいずれも著者があとがきで言うとおり「愛する人たちといつまでもいっしょにいられるわけではないし、どんなにすばらしいことも過ぎ去ってしまう。どんな深い悲しみも、時間がたつと同じようには悲しくない。そういうことの美しさをぐっと字に焼きつけたい」というような話になっていて*1、そしてそのまとめがあまりにも的を射すぎていて、私として取り立てて言うことはほぼなくなってしまったので須賀、純粋に感想を一つ。
彼女の小説を読んでいると、オルセーに行った時のこと*2を思い出します。まだその話をここに書いていないのでそのまま突っ走るのも気が引けるので須賀、オルセーで感じたこと、名だたる作品群を目の前にして得た、芸術って「いい」かどうかじゃなくてわかるかわからないかだよな、という格率(笑)が、ふと蘇ったのでした。何が言いたいかというと、彼女の感性結構わかるわ、ということです。私は昔から小説の風景描写が好きではなくて、雰囲気だけ読み取って流すことが多かったので須賀、今回はほとんどちゃんと味わって読みました。加えて心情描写、ものによってはどういう状態を描写しているのか、何度か読んで自分の頭の中で再現してみる、なんてこともしていた*3ので須賀、これらの作品の描写は、一回その文字を見るだけでその心情を追体験できる(気がする)のです。例えばこんな表現、死を悟った病人が、病室にあったパイナップルを持ち帰るよう頼むシーンなので須賀、

…南から来た明るい植物に、死がしみ込む前に持って帰ってって泣いて頼むのよ。

これなんかはちょっとゾクゾクしましたね。即座に栞を挟みました。そういう「わかるわかる」の体験を、より多くさせてくれた一冊だったように思います。

*1:特にムーンライト・シャドウとかそうですよね

*2:一部地域既報

*3:=そこまでする必要があった