かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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きっかけはこれwww

今ではよく聞く言葉になった「ソフトパワー」の提唱者であるジョセフ・ナイが、その概念とアメリカにおける現状を論じた本です。彼によれば、ソフトパワーとは自分が望む結果を相手にも希望させる魅力の力であり、それば文化や政治的な価値観、外交政策などに起因しています。そしてそのソフトパワーを従来のハードパワーとあわせて用いることは、政治・軍事力、経済力、多国籍関係*1という、「三次元の複雑なチェスゲーム」をプレーせざるを得ない各国の政策を考える上で必要不可欠だ、と彼は論ずるのです。その上で彼はイラク戦争におけるブッシュ政権の政策を、アメリカがハードパワーによって得たもの以上のソフトパワーを失ったと批判しています。大まかにはそんなお話です。
読んでみて感じたのは、ジョセフ・ナイという学者の学者としてのバランス感覚の強さ*2でした。まず何よりもハードパワーとソフトパワーのバランスによる「スマートパワー」の実現を訴え、どちらか一方に偏る議論を排していることです。彼がソフトパワーの提唱者でありながら、同時に両者のバランスを説いていることを見逃してはならないと思います。またブッシュ政権の政策についても、以上のような立場を踏まえながらあくまでも是々非々で、彼らの言動を冷静に腑分けしながら論じているところはさすが学者というべきか、優れたバランス感覚の持ち主であることを感じさせました。
そして最後に、文化交流*3による価値観の浸透、といった議論の中にもそれを感じさせる余地はあったように思います。彼はそういった議論においては文化帝国主義的というか、「アメリカ文化の輸出がアメリカへの好感度アップやアメリカ的価値の浸透にプラスになる」という認識を原則として話を進めている*4ので須賀、一方で「同じメッセージでも、受け手が違う状況が違えば、違った形で『ダウンロード』され解釈されて、影響も違ってくる」という留保もちゃんとつけているんですね。まぁこれは本の中では好感度調査の結果統計をもとに導かれている議論なので、彼がどこまでメディア論的な知見を踏まえて言っているのかは分かりませんが、そのあたりの問題意識をも組み込んでいける*5というのは評価できると思います。こう見ていくと、何かジョセフ・ナイという学者の存在の重みみたいなものを感じますね。
…なんか褒めちぎりすぎたようなのでこの辺で。ややアメリカ的価値に楽観的な印象、とか多少の文句はありま須賀、そこばかり突くのもバランスを欠いている(←wwwwww)気がするので、とりあえずのレビューとしてはこれでよしとしておきますwww

*1:という訳は何を指すのか不明瞭で個人的には好きではないので、さしあたり「ボーダレスな関係」とでもしておきたいです

*2:直感的に言えば「鋭さ」ではないんです

*3:発信だけではないと説くところもバランスですよね

*4:まぁソフトパワーの重要性を論じる本である以上そっちを中心に話すのはやむを得ない、という側面もあるでしょうが

*5:といっても彼は同時に国家によるソフトパワーの管理不可能性を言っていて、受け手によって様々な解釈可能性があるからどうしろということまでははっきり言及してなかったりするんですけどねw