【目次】
戦勝国は意識的に「自重」した
ナポレオン戦争、20世紀の2度の世界大戦、そして冷戦という四つの大きな戦争後に、戦勝国がどのような国際秩序を形成していったかを論じた本です。
具体的には、ウィーン会議では英国、それ以降では米国が戦後体制づくりを主導したわけで須賀、その秩序は時代が下るにつれて制度化していったといいます。
そのタイミングでこの立場*1を得た国は、従前の秩序が崩れた状態で最強のパワーを持っているわけで、言わば力任せに収奪的な支配を行うこともできますし、あるいは主戦場となった場所(この場合は大陸ヨーロッパ)から手を引いて自分の国に帰ってしまうこともできます(米英ともに大陸から海を隔てています)。それでも両国とも、短期的な自国の利益を制限してまで、長期的な仕組みをつくることを目指したといいます。
それは短期的には主導国の「取りこぼし」に見えるかもしれませんが、長期的には自国の地位を脅かし得る新興国を拘束することに繋がります。NATOとドイツとの関係はその成功例でしょう。こうして定着した制度は時が経てば経つほど覆されにくくなり(経路依存性)、世界大戦とは性質を異にする冷戦の後において、唯一の超大国である米国が進めたのも、NAFTAやWTOといった新たな制度構築だったのでしたー。ツルツルに丸めてしまえば、だいたいこんな論旨です。
議論する上で、やはり事例が少ないことの限界は感じましたが、そもそも従前の国際的な秩序が壊れて、新たなものが構築されるほどの戦争自体がかなり限られていますので、付け加えるとしたら30年戦争くらいでしょうか(古すぎるかもしれませんが、登場する国家のバリエーションを増やす意味でも興味深い事例だと思います)。
「偉大なアメリカ」とは?
この本が出版されたのは2001年。9・11テロの直前でした(日本語版はその後出たので、テロにも言及されています)。本書の最後の一節は、その時期にも垣間見えていたブッシュ政権の単独行動主義的傾向に疑問を投げかけたものです。
現在の私たちは、その後に成立したトランプ政権が「米国を再び偉大に」と叫びながらこうした制度による協調と相互拘束をかなぐり捨て、内向きな政策と生身のパワーによる暴走を繰り返したこと、そしてちょうど同じ時期、急速に大国化する中国が1945年に米国が築いた制度に挑戦していることを目撃しています。戦後構築が著者の言うように、パワーが制度に変換され、その制度が長らくパワーを規定していくものであるなら、かつて自分たちが築いた制度に拠って各国と折り合っていくことは、弱さでも何でもなかったのだということをしみじみ感じさせられます。それこそが「米国の偉大さだ」と、著者は思っているでしょう。