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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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昭和史 1926-1945

昭和史 1926-1945

半藤さんの「昭和史」の戦前編です。率直な感想を言うなら、非常に面白かったです。確かにハードカバーで500ページを超える大著ではあるので須賀、本人も言うとおり講談調の語り口がそのまま活字になったような文体で、とても読みやすくもありました。
昭和史を語る上で著者は、昭和の政治史を語る上で当然欠くことのできない軍部や近衛らの政治家、そして昭和天皇*1の動向や言動にもちろん多くを割いた一方、新聞をはじめとするマスコミの動向にも注意を払っています。これは文藝春秋の編集長であった彼自身の問題意識ということもあるのでしょうが、彼が5つの教訓の第1で述べている通り、国民的熱狂を作り出し、そしてそれを煽っていくことがいかに危険であるか、それをよりリアルに理解することができた、いや、否応なくそうさせられたなぁというのが、私の一番の感想でした。少し前に出たこの記事の、「ナショナリズムの隆盛が目立つ」という言葉がなぜ「厳しい評価」の「理由」になるのか、これも否応なく『昭和史』に突きつけられてしまった気がします。

報道の自由:日本に厳しい評価 国境なき記者団がランク
【パリ福井聡】国境なき記者団(本部・パリ)は24日、世界168カ国の「06年報道の自由度ランキング」を発表した。
それによると、最高位はフィンランドアイルランドアイスランド▽オランダの4カ国。最低は北朝鮮トルクメニスタンエリトリアの3カ国だった。日本は「ナショナリズムの隆盛が目立つ」との理由で前年より14位下がって51位と厳しい評価となった。
米国は「テロとの戦いを巡りブッシュ政権と司法、メディアの関係が悪化した」として53位に、前年首位だったデンマークムハンマドの風刺画掲載への脅迫などで19位に、フランスも治安を巡る政府とメディアの対立から35位に、それぞれ後退した。(10月24日、毎日新聞)

あともう一つ付け加えるならば、戦前の昭和史を語る上で無論「教訓」という言葉とは無縁ではいられないわけで須賀、このような悲惨な戦争に長期にわたって手を染めてしまった原因*2や、どこかで引き返すターニングポイントの有無といった論点以上に、独ソ不可侵条約のところで出てくる、このくだりが印象的でした。
…つまり時代の渦中にいる人間というものは、まったく時代の実像を理解できないのではないか、という嘆きでもあるのです。(中略)これは何もあの時代にかぎらないのかもしれません。今だってそうなんじゃないか。なるほど、新聞やテレビや雑誌など、豊富すぎる情報で、われわれは日本の現在をきちんと把握している、国家が今や猛烈な力とスピードによって変わろうとしていることをリアルタイムで実感している、とそう思っている。でも、それはそうと思い込んでいるだけで、実は何もわかっていない、何も見えていないのではないですか。(中略)ですから、歴史を学んで歴史を見る眼を磨け、というわけなんですな…
確かに彼の言うとおり、「それにしても何とアホな戦争をしたものか」というのが戦後に生きるわれわれの実感としては多くを占めるものだと思いますし、私もそれに異議はありません。でも、それって後知恵でしかないんですよね。私が戦前の昭和史を批判してみたところで、それとさして変わらないような事態が現に今起こっていて、ただそれに私は気づいていないだけなのかもしれない… 先ほどの脚注で挙げた「状況分析力の問題」なんてまさにそれです。今正直書きながら話の落としどころに苦慮しているので須賀(藁)、「歴史を学んで歴史を見る眼を磨」くとはそもそもどういうことか、さらに歴史を学びながら考えていければと思いますw

*1:昭和天皇の言動に対しては『昭和天皇独白録』などを用いて特に手厚く記されていま須賀、苦言もありながらも著者の昭和天皇に対する敬愛というよりは親愛に近いような心情が、どことなく感じられるような文章でした

*2:この本の中では軍部(特に陸軍)の統率力の問題と、状況分析能力(また情報力)の問題が重視されていた印象を受けました