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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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「負ければ賊軍」のオセロゲーム/『賊軍の昭和史』(半藤一利、保阪正康)

賊軍の昭和史

賊軍の昭和史

昭和の戦争へ突っ走っていったのは戊辰戦争の官軍(薩摩・長州)に連なる勢力で、それに始末をつけたのは賊軍側の人たちだった―。そういう切り口から、近代史を官軍/賊軍で捉えなおそうとした対談本です。具体的には、対米開戦時の海軍主流派はロンドン条約における艦隊派薩長閥で、陸軍は「反長州閥」の反動で混乱していたといい、こうした官軍側の負の遺産を背負って最後の最後に踏みとどまったのが、「終わらせ方(要するに負け方)」を知っていた賊軍側出身の軍人たちだった―という流れで話が進んでいきます。
鈴木貫太郎やいわゆる海軍の三羽烏*1、陸軍では石原莞爾、長州嫌いで知られた東条英機などが、「賊軍出身者」としてどんなキャリアを歩んできたのかが紹介されており面白かったです。ただいかんせん牽強付会すぎて、理屈の上で無理がある部分が多いんですよね。「薩長出身の連中には、『自分たちが作った国家だから、自分たちで滅ぼしたっていいんだ』という厚かましい精神があったと思う」(半藤)などというのは最早言い掛かりに近いですし、「薩長の作った国家の歪みを抱えたまま、悲惨な戦争に突き進んでしまった」(保阪)というのも、時代に応じて国家を運営していく責任は、第一義的に同時代の指導者にあるのではないかと言いたくなってしまいます。
これでは「勝てば官軍」を批判していたつもりが、「戦争に負けた国家体制を作ったのは山口と鹿児島のやつらだ、あいつらが悪い」という「負ければ賊軍」と同じロジックになりかねない。オセロゲームは分かりやすいで須賀、歴史を学ぶ上ではあまり有益ではないでしょう。
まあ対談者の2人も、さすがにそこまでのことを主張するつもりはないでしょう。「この国が滅びようとしたとき、どうにもならないほどに破壊される一歩手前で、何とか国を救ったのは、全部、賊軍の人たちだったのです。これは、偶然といえば偶然なんですが*2ね」(半藤)。このぐらいのスタンスで読めば、興味深い本ではあると思いますけれども。

*1:米内光政・山本五十六・井上成美

*2:原文ママ