かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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とりあえずほっとはしたが…/尖閣諸島沖での船舶衝突事件めぐる日中対立

日中首相がブリュッセルで会談 関係修復を図る姿勢で一致
菅直人首相と中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相が4日、ブリュッセルで開かれているアジア欧州会議(ASEM)の会場で会談した。尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件をめぐり悪化した日中関係の修復を図る姿勢で一致した。
菅首相が記者団に語ったところによると、両首相はASEMのワーキングディナーの後、会場の廊下で約25分間にわたり会談した。
日中のメディアによると、温首相は会談で、良好な日中関係を維持することは双方の利益になると述べ、菅首相も同意した。新華社通信は、両首相が民間交流や政府間対話を促進し、適切な時期にハイレベル協議を開くことで一致したと伝えている。
尖閣諸島については、温首相が中国の領土であると改めて主張したのに対し、菅首相は日本固有の領土だとの立場を貫いたとされる。
日中関係は衝突事件をきっかけに悪化し、政府、民間の各レベルで交流が停滞している。日本側が勾留(こうりゅう)した中国人船長は釈放されて帰国し、英雄として歓迎を受けた。一方、中国で拘束された建設会社フジタの日本人社員4人のうち、1人は依然釈放されていない。
(10月5日、CNN)

まあ第三者から見れば「会談」でしょうw
この問題については発生当初から書きたいと思っていたので須賀、なかなかまとまった時間がとれず結果的に沈黙を守る形になってしまいました。ちなみに今もまとまった時間はないので(笑)、極めてざっくりと。
一連の流れを振りかえる際に最も肝に銘じておくべきと私が考えるのは、「我々―彼ら」という思考パターンを脱し、「日本政府―中国政府」という枠組みで問題をとらえることです。日本政府が中国人船長を「日本の国内法に基づいて」扱うと繰り返すことも、日本政府が船長を釈放した際に中国政府が「謝罪と賠償」を求めることも、お互いが尖閣諸島の領有権を主張している以上、論理的には当然導かれる立場です。その相容れない主張の対立に触れないで事を収める処置というのも現実問題としてあり得、過去にもなされたことがあるようで須賀、それをしなかった日本側が尖閣という国家主権にかかわるパンドラの箱を開けてしまったのか、あるいは漁船単独による極めて悪質な行動があったのか、さらにはその背景に明示的か否かを問わず中国政府の意図や政策があるのか、その辺は例のビデオを見て考えていきたいものです。
話を戻すと、日本政府―中国政府という枠組みで捉えなおせば、政治学のツールを使って両国の行動はある程度(全てではない)説明できます。両国とも、対立が深まるにつれ湧き立つ両国の世論を無視できなかった*1こと(外交交渉における2レベルゲーム)、中国政府が船長釈放までの間これでもかというくらい強硬な措置を矢継ぎ早に繰り出し*2、釈放から徐々に態度を軟化させてきていること(ゲーム理論におけるしっぺ返し戦略*3 )などは、そのほんの一例でしかないでしょう。
しかしここで、一つ言わなければならないことは、政治のみならず経済、文化領域にまでわたる中国政府の対抗措置は、恐らく今後の中長期的な日中関係に暗い影を落とすだろうということです。経済的な相互依存関係が両国の政治的関係を安定・好転させるという考え方も政治学にはあります。これはもちろん文化など民間の人的交流にも言えることだと思うので須賀、そこを断ち切らんとするかのような*4中国政府の措置は、それらの領域が(副次的に)持つ政治への調整機能を大きく傷つけたと言わざるを得ません。むしろ「政治的紛争が起きる度に支障なく商売を続けられなくなるのなら、安定的な取引関係を結ぶリスクは他国企業より高い」とか「楽しみにしていた上海への修学旅行が国同士のけんかで中止になってしまった」といった反応が日本国内に広がれば、それは中国国内のカウンターパートにも波及するでしょう。そうなると、日中関係の重要な安定・発展機能が、中長期的にうまく働かなくなる可能性があるのです。

*1:なので個人的には、「脱小沢」という消極的な支持の上に再出発した菅内閣が、船長を勾留満期前に釈放するという「不人気政策」を採用したことには少なからず驚きましたが、報道によるとそもそも総理の意思が早期釈放にあったようですね

*2:むしろあれだけのことを政府の意志で行える中国政府の中国社会に対する強さには感心させられました。ほめてはいません

*3:この場合の日本政府の選択は「釈放しないという状態を継続すること」で、それに対する中国政府の「しっぺ返し」と理解できます

*4:まぁそれが出来るという中国政府の社会に対する(ry