かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『13日間―キューバ危機回顧録』(ロバートケネディ)

13日間―キューバ危機回顧録 (中公文庫BIBLIO20世紀)

13日間―キューバ危機回顧録 (中公文庫BIBLIO20世紀)

いわゆるキューバ危機に際して、当時のジョン・F・ケネディ大統領の実弟で司法長官だったロバート・ケネディが、当時の米政府内での意思決定の様子を語った回顧録です。これは掛け値なしに面白い本で、政治学の教科書では味わえない生の政治の息遣いや醍醐味を味わうことができます*1。その上で文民統制の重要性や、官僚機構が上げてくる情報の偏在の危険性、ケネディ大統領とフルシチョフ首相が幾度となく言及している相互確証破壊(MAD)の考え方、またそれこそ古代中国からの兵法に出てくるような「相手を完全に追い詰めることはするな」という格率など、現在政治学などで言われていることを地で行いあるいは語っているという、その意味ではこの本こそ生きた教科書と呼ぶにふさわしいようにも思えます。
読みながら特に感じたのは二つのことでした。一つは、アメリカ合衆国という国の指導者たちが帯びた倫理性です。「大国たるアメリカが小国キューバを奇襲攻撃し、無辜の市民を殺傷することがアメリカとして許されるのか?」 その問いは、海上封鎖の決定から米ソ間に妥結がなるまで、ことあるごとに大統領をはじめとするスタッフたちが念頭に置いてきたものでした。確かに多分に属人的な要素もあるので生姜、アメリカという国の時に過剰かつ異常な道義主義の一端を見た気がしました。
もう一つは、国連の果たした役割です。ロバートの書いた本編では不思議と触れられていませんが、付録の記録文書を読むと、この危機において国連が、もっと言えば事務総長代行だったウ・タントが、少なからずの役割を果たしていたことが理解できます。当然両者が安保理常任理事国という立場にあったことも無関係ではないので生姜、米ソという二つの超大国が決定的に対立してしまった時、その間に立ちえた国連の存在というのはやはり大きいな、と実感させられました。
とまぁ、とても勉強になったわけですけど、不満な点もありました。まず日本語訳が堅すぎる。当時の毎日新聞の外信部が訳したそうで須賀、ほぼ直訳で全くこなれていなくって、日本語として非常に読みにくかったです。もう一つ、当時交わされた声明などの記録文書を載せてくれるのはありがたいんですけど、本文との続き具合が何らかの形で分かるようにしておいて欲しかったです。これは明らかに編集側の問題ですね。

*1:当たり前ですけどこれをもって教科書が悪いと言っているわけでは当然ありません