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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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キムクリ会談

クリントン元大統領、金総書記と会見 引き渡し要求か
【ソウル=牧野愛博、ワシントン=村山祐介】訪朝しているクリントン米元大統領は4日、北朝鮮金正日キム・ジョンイル)総書記と会談した。国営朝鮮中央放送の報道としてラヂオプレスなどが伝えた。クリントン氏は会談で、拘束されている米国人女性記者2人の解放を求めたとみられる。北朝鮮核問題の解決に向け、米朝双方の考え方について意見交換した可能性もある。米政府は同日、訪朝について「記者2人を解放するための私的な訪問だ」とする声明を出した。
同放送によると、会談で2人は「共同の関心事となる諸問題について幅広く意見交換した」とし、クリントン氏は金総書記にオバマ大統領の口頭メッセージを伝達、金総書記は謝意を表し、クリントン氏の訪問を歓迎したという。オバマ氏のメッセージの内容は明らかになっていないが、ロイター通信によると、ホワイトハウスはメッセージの伝達を否定した。金総書記は、核問題などをめぐる米朝の対立を終わらせたい考えなどを伝えた可能性がある。
米元大統領による訪朝と北朝鮮最高指導者との会談は、94年6月に金日成(キム・イルソン)国家主席と会ったカーター氏以来、2人目。クリントン氏は大統領退任直前の00年12月、自身の訪朝を検討したが、断念した。
会談には、北朝鮮側から姜錫柱(カン・ソクジュ)第1外務次官と朝鮮労働党の金養建(キム・ヤンゴン)部長が同席した。会談後、金総書記らが出席して国防委員会主催の夕食会も開かれ、同放送によると「温かい雰囲気の中で行われた」という。
朝鮮中央通信などによると、北朝鮮の楊亨燮(ヤン・ヒョンソプ)・最高人民会議常任副委員長や金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官が、空港にクリントン氏を出迎えた。
韓国政府関係者によると、北朝鮮側は、訪朝中の詳しい日程について事前に説明していないという。先週、拘束中の女性記者の家族と面会した韓国の千●(「王」へんに「基」)元牧師は4日、「クリントン氏は5日、2人を連れて北を出発するようだ」と語った。
ホワイトハウスのギブズ大統領報道官は4日、訪朝について「米国人記者2人を解放するための完全に私的な訪問であり、我々はコメントしない。クリントン元大統領の訪問の成功を妨げたくない」と語り、米政府としては表向き関与していないとの立場を強調した。米政府は事前に訪朝計画を日韓両国に伝えた。(8月4日、朝日新聞)

まだ訪問中なので簡単に。
まずここでビル・クリントンというのは、もちろん元大統領かつ現国務長官の夫という超大物だから、ということに加えて、とはいえ現政権のスタッフではない、という要素もあるでしょう。当然彼が行く以上、一定の成果の目処があるということなので生姜、もしその成果がおもわしくなかったり、万一サッパリなんてことがあっても、「米国人記者2人を解放するための完全に私的な訪問」(ギブス報道官)が建前である以上、米朝関係やオバマ政権そのものへのダメージは一定程度抑えられるわけです。
そしてまた、金正日と会っている以上、「共同の関心事となる諸問題について幅広く意見交換した」(朝鮮中央通信)可能性も否定できないと思います。94年のカーター・金日成会談を下敷きにした訪朝であることは両者とも否定はできないでしょうし、クリントン元大統領自身、退任間際に訪朝を模索していた過去もあります。ただ、それこそ94年の文脈で、北朝鮮サイドが「父同様アメリカの元大統領を呼びつけた」金正日の威信を内外に示す意図を持っていることは十分想定できます*1から、核問題におけるアメリカの歩み寄りを示唆するあちらの発表を、そのまま鵜呑みにするのは危険でしょう。
いずれにせよ、こんなことを言うのはまだ早いかもしれませんが、たとえ本当に記者解放についてのみの話し合いだったとしても、その点で一定の成果があれば、米朝関係全体にもいい流れができてくるのではないかと期待はしています。しかし、94年との最大の違いは、この訪朝が北朝鮮がすでに核保有を宣言し、世界の非核化を志向するオバマ政権に泥を塗るようなタイミングで核実験を挙行した後であることです。特にこのタイミングでの核実験は、米朝双方にとっての妥協のハードルを思いっきり上げてしまった。本当に北朝鮮はさすがだと、この期に及んで痛感させられます。

*1:訪問を即刻報じたのもその表れでしょう