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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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日朝ともに狙いは孤立化局面の打開?/飯島勲氏訪朝

首相主導の飯島氏訪朝=「日本単独」にリスクも
飯島勲内閣官房参与北朝鮮訪問は、安倍晋三首相が主導して早い段階から周到に準備してきたことが15日、複数の政府・与党関係者の話で分かった。拉致問題打開の糸口をつかむため、首相がトップダウンで決断したようだ。ただ、対北朝鮮制裁強化での国際協調を乱しかねないと懸念する声は、政権内にも上がっている。
「圧力をかけながら彼らの政策を変え、対話によって問題を解決したい」。首相は15日の参院予算委員会で、飯島氏訪朝には「ノーコメント」を連発しつつ、北朝鮮との対話の必要性に言及。金正恩第1書記との首脳会談も「当然考えながら交渉していかなければならない」と言い切った。
首相が解決に執念を燃やす拉致問題について、首相に近い政府関係者は今年3月、直接は聞かされていないとしながらも「動いていないわけじゃない。首相と話しているとビリビリと感じる」と指摘。別の関係者も同じ時期、「飯島氏が拉致問題絡みで外国に行っている」と証言していた。
このことを裏付けるように、政府高官は15日、第三国での北朝鮮との非公式接触について「そんなことはずっとやっている」と言明した。飯島氏の訪朝は、菅義偉官房長官ら政権中枢のごく限られたメンバーしか知らされていないようだ。
拉致問題を動かすなら、まずは当時を知る2人でやるしかない」。政府関係者は、2002年9月の小泉純一郎元首相訪朝に官房副長官と秘書官として関与した首相と飯島氏の動きをこう指摘する。04年の被害者家族の帰国を最後に、拉致問題は動いていない。小泉政権の数々の「サプライズ」を演出した飯島氏に、与党からも「期待は大きい」(幹部)との声が上がる。
ただ、政府高官によれば、今回の訪朝は対北朝鮮で連携する米韓両国に「伝えていない」という。北朝鮮を擁護してきた中国が、度重なる挑発行為に業を煮やし、金融制裁に踏み出した時期だけに、「日本だけが変な方向に進み出した印象を与えかねない」(自民党ベテラン)と危惧する見方もある。首相周辺の一人も「とっぴな感じ」と戸惑いを隠せない。
(5月15日、時事通信)

拉致問題に長らく関心を持ち、小泉訪朝にも関わった安倍首相。安定政権樹立の成否を決める参院選前に、経済政策以外にもう一発「花火」を打ち上げるインセンティブが働いていることも考えられ、日本政府側のこうした働きかけはある意味ごく自然なこととも思います。
一方ここで考えてみたいのは、北朝鮮を取り巻く主要アクター間の関係性の変化です。北朝鮮は先月来、対米韓を中心に「やるぞやるぞ」のポーズを続けており、特に対韓国で言えば、南北協力の象徴的意味合いのあった開城工業団地が事実上閉鎖されるなど関係は冷え込んでいます。加えて、中国銀行などの口座凍結は、「血で結ばれた」中朝関係が今は昔となりつつあることを示していると言って差し支えないでしょう。まとめて言えば、北朝鮮はこれまで以上の孤立局面にある。
翻っての日本も、その枠組みで考えれば孤立しつつあります。靖国参拝歴史観についての発言*1などで、尖閣問題を抱える中国との関係はますます冷却化し、お互い仕切り直しで関係改善を模索したはずの韓国は、今や北朝鮮問題をめぐり「日本外し」ともとれる行動をとっています。安倍首相は今日の国会答弁でも「民主党政権で緩んだ日米同盟を立て直した」と自信ありげにのたまっていましたが、第二次世界大戦をどう受け止めるのかということについて、極めて重要な参戦者であったアメリカが、そうした方向で歴史を見直すことをどう評価するでしょうか? 少なくとも、六者協議が始まって以来、日米韓で北朝鮮に当たる構図がこれほど崩れたことはないはずです。
北朝鮮は局面打開のため、自らをとり囲む環の最も弱い部分を衝く。日本は(特に米韓に「抜き打ち」でやることで)自らの北朝鮮問題へのプレゼンスを示し、「日本外し」への牽制を狙う。メンバー内での孤立が進む同士のこの接近劇は、前提として、ビスマルク後の露仏同盟のように「同盟」にまで昇華することはまさかありえないでしょう。どちらも相手よりその周りを見てのアクション*2であるなら、本題たるべき日朝の進展はどのくらい期待できるでしょうか。

*1:橋下徹発言は論評に値しない

*2:日本の場合、自ら日米韓の枠組みを揺さぶる形になったわけで、「周りへのアクション」という意味で本来の狙いを果たせるかについても予断を許しません