かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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甲陽軍鑑 (上) (教育社新書―原本現代訳)

甲陽軍鑑 (上) (教育社新書―原本現代訳)

甲陽軍鑑 中 (教育社新書 原本現代訳 5)

甲陽軍鑑 中 (教育社新書 原本現代訳 5)

甲陽軍鑑 下―落日の甲斐路  教育社新書 原本現代訳 6

甲陽軍鑑 下―落日の甲斐路  教育社新書 原本現代訳 6

武田信玄・勝頼二代の事績などを記した甲州流軍学の書です。著者は武田四名臣の一人・高坂昌信であると言われていま須賀よく分かっていません。
まぁ趣味の本ですと言えばそれまでなので須賀、いくつかの意味で勉強もさせてもらいました。それは一言で言えば、当時の常識を垣間見ることができたということです。具体的には当時の軍制や大名家の機構・「強い家中」を作るための信賞必罰の重視・公事(裁判)の際の法意識のあり方などについて、ある程度の理解をすることができたように思います。特に最後のは結構面白かったですね。この訳本で言えば下巻の途中に、甲州法度之次第に基づく判例集みたいなものがそこそこの分量で扱われていたので須賀、紛争当事者の予測可能性に配慮して被告側を不問に付すといったような、近代法にも見られる考え方が見られたりもして非常に興味深かったです。まぁそうでない部分ももちろん多々ありました。ただ私は信玄には裁かれたくない*1ですけどねww 下手な大岡裁きみたいなのが結構多かったのでw
あとこの『甲陽軍鑑』そのものの歴史史料としての位置付けについてで須賀、これに関しても諸説あるようです。そもそもこの本では、勝頼に取り入って武田家滅亡の一因を作ったとされている長坂長閑・跡部大炊への筆誅の書と言う形式が取られ、そのためか具体的な日時や地名についての誤りがあることをあらかじめ断っています。また山本勘助の存在についても、それを裏付ける史料がなかなか見つかってきませんでした。ゆえに『甲陽軍鑑』の歴史史料としての価値には今でも一定の疑問符がついて回っている*2ので須賀、一時期言われたような完全なデタラメでもないと思います。いずれにせよ、今年の大河ドラマ風林火山」に出てくるようなエピソードも満載ですので、興味のある方は読まれてみてはいかがでしょうか。ただこの訳本は現代語訳にちょっと問題があるのでオススメしません。

*1:彼は今で言うところの最高裁長官を兼ねているんですね

*2:確かに明智光秀が勝頼に内通してきていたことを示唆するようなちょっと考えにくい記述もありました