かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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吾輩は飛翔体である。名前はまだない。

【北ミサイル発射】いつまで「飛翔体」? 新呼称「ミサイル関連飛翔体」も
北朝鮮による長距離弾道ミサイル発射を受け、麻生太郎首相は「挑発的行為」と激しく非難しているが、政府の公式呼称は今も「飛翔(ひしょう)体」のままだ。ミサイルと断定できる証拠がなお見つかっていないためだが、いつまでもあいまいな表現を使っていれば、新決議採択に向けた国連安保理での折衝に影響が出かねない。与党側は「政府はもっと強いメッセージを出すべきだ」(自民幹部)といら立ちを募らせている。
人工衛星を積んでいたのか、いなかったのか。この分析結果が出れば(ミサイルと)表明できるが、国連決議に間に合うかどうか明言できる段階にない」
河村建夫官房長官は6日の記者会見で、「政府の見解をいつ出すのか」とただされ、苦しい釈明を続けたあげく「ミサイル関連飛翔体」という珍妙な新語を作ってしまった。
首相や河村氏はかねて「ミサイル」と断じてきたが、政府は3月27日の安全保障会議を機に「飛翔体」という呼称を公式採用した。防衛省が「もし本当に人工衛星の打ち上げだったと分かったら、ミサイルと断定した日本政府が逆に国際非難を受けかねない」と強く求めたためだ。
このため、河村氏は記者会見での呼称をすべて飛翔体に変更した。首相は飛翔体という呼称を使いたがらず「ロケットあるいはミサイル」などと表現。4月5日の発射当日は「このたび発射したこと」と主語を省略し、7日は「ミサイル発射と思われるようなもの」と微妙な表現でごまかした。
一方、飛翔体というあいまいな表現では国民に強いメッセージが出せないと考えた自民、公明両党は早々と「ミサイル」の呼称に統一した。発射3時間後に発表した与党声明では「北朝鮮がミサイル発射を行った」と断定。細田博之幹事長は6日の政府・自民協議会で「なぜ政府は『飛翔体』なんて言っているんだ。日本に対する脅威なんだから、『人工衛星が飛んでいませんね』とか『音楽が聞こえていない』などと言っていてはダメだ」と強く迫った。
だが、ミサイルとロケットは、先端部に弾頭を積むか人工衛星を積むかの違いだけで構造は同じだ。違いを証明するには先端部分を回収するしかないが、太平洋に沈んだとみられ回収はほぼ不可能。そうなれば発射角度や最高速度、弾道などを割り出し、「人工衛星の軌道投入は不可能で、最初からミサイルの発射実験だった」という結論を導き出すしかない。
このため、防衛省イージス艦のレーダーなどのデータ解析を急いでいるが、ミサイルと結論づける報告書をいつ提出できるか、メドは立っていないという。
しかし、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は5日の段階で「テポドン2号ミサイル」と断定し、「いかなる物体も衛星軌道に進入しなかった」と公表している。このまま政府があいまいな表現を続けていれば、国連安保理での折衝に影響が出かねないとの見方も出ている。(田中靖人)
(4月7日、産経新聞)

そりゃはっきりしないんだったら飛翔体は飛翔体でしょう。「強いメッセージを出す」という政治的な意図のために実相をゆがめるような言い方をするのは愚かとしか言いようがありません。これは言い方の問題だけではなくて、こういう姿勢が実際に「都合のいい情報(=飛翔体がミサイルであるという判断と整合的な情報)しか上がってこない」というダメ組織の典型のような状況を生むのです。
そもそもこの打ち上げが具体的に何に違反し、何が非難されるべきなのかという議論はあるようで少ない気がします。友人が法的な論点をmixiでまとめてくれていて、本当はその辺はリンクでも貼ってしまいたいところなので須賀、それらによると、今回北朝鮮国際海事機関国際民間航空機関、さらには日本の国交省への通告がなされていることから、一般的に人工衛星を打ち上げるための国際法的要件はクリアしているとみなせます。
じゃあ今言われている安保理決議1718への違反についてで須賀、飛翔体が何であるのか、証拠と共にはっきりさせない限りこれも難しいんだと思います。ロケットとミサイルの技術はかなりの部分が共通しているから発射は弾道ミサイル関連活動だ、ということらしいんで須賀、それは要するに、一般論としてロケット打ち上げは弾道ミサイル関連活動だと言ってしまっているに等しいわけで、その論理を通すなら日本のH2ロケットも「ミサイル関連飛翔体」であると認めなければならないはずです。まぁ実際H2ロケットの先端に使用済み核燃料を積んで打ち上げれば、立派な*1核ミサイルになるというのは相当前から言われている話なんですけどねww またアメリカが言うように人工衛星が軌道にないことは、当然ながらそれがミサイルだということを直接証明するものではありません。ロケット打ち上げ失敗=ミサイルなら、日本の失敗したロケットは何丼と呼ぶべきでしょうか。私は最近天丼が好きです。
なので、私はこの北朝鮮の行為が「明確な国際法違反」であるとはどうしても思えないでいます。発射前に飛翔体の先端部分が通常のミサイルより丸みを帯びていて、大気圏への再突入時の摩擦を考慮した造りとは考えにくい、との指摘も出ていましたがどうなんでしょうか。「飛翔体」の今後の解明が待たれます。
ちなみに報道各社は飛翔体をどう表現しているか。上に挙げた産経以外の新聞のネットの発射記事を見ると、「「衛星を積んだロケット」と称して5日打ち上げた長距離弾道ミサイルテポドン2」とみられる機体」(朝日新聞)、「長距離弾道ミサイル発射(北朝鮮人工衛星光明星(クァンミョンソン)2号」打ち上げと主張)」(毎日新聞)、「「人工衛星」名目で発射した長距離弾道ミサイル」(読売新聞)、「「人工衛星」を搭載していると主張して5日に発射した長距離弾道ミサイルテポドン2号」」(日経新聞)、「試験通信衛星光明星2号」打ち上げ場面とする映像」「朝鮮中央テレビが放映した北朝鮮から発射されたミサイル*2」(共同通信)と、ちょっと控え目な朝日を除いてすべてがミサイルだとしていました。朝日も含めて、何を根拠にそう言ってるんでしょうね? 4日の「発射誤報」で政府を強く批判し、「やっぱり政府情報をそのまま流すのは問題があるよな」なんて言っている*3方々がミサイル説を言われるがままに垂れ流しているとすると信じられないダブルスタンダードですし、信じたくはありませんが「まぁどうせミサイルっしょ」的なノリでそう書いているのではないかという疑念まで湧き起こります。
最後に一つ、この日本社会の言説状況の中にこのブログもあるんだという自覚の上で付記しま須賀、別に私は今回の北朝鮮の行動が素晴らしい、と言っているわけではありません。もちろん北朝鮮にも平穏に宇宙を平和利用する権利はありま須賀、ミサイル開発が問題視されてきた過去の経緯上、やるにしても周辺諸国などに丹念な説明責任があっただろう、ということは言えるでしょうし、北朝鮮が政治的意図をもって飛翔体を発射したとすれば批判されるべきだと思っています。
追伸。興味深かった記事のリンクをば。長距離ミサイル開発で北朝鮮が黒なら日本は真っ黒なんだけど - media debugger

*1:といっても「ダーティーボム」というやつらしいで須賀

*2:写真絵解き

*3:これは至極正論だと思います。流すのはあくまでも報道機関の責任ですので、日テレのバンキシャ誤報と同じで、「北朝鮮が飛翔体を発射しました!」とテロップを打ったテレビ局があればその局は誤報を打ったことになります。実際各局どうだったか確認したわけではありませんが…