- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 文庫
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まず思ったのは、この話はやはりヒーローたちの「戦争ごっこ」なんだな、ということです。物語の中盤までは、福岡を占拠した北朝鮮勢力の非常に冷静かつ冷徹な統治が際立っていてシュールで面白かったので須賀、途中からあれっ?と思わざるを得ない展開が増えた気がします。どこのシーンかまではここでは言いませんが、ヒーローたちと対するときだけこれまでと同じ連中とは思えないミスをしでかしたり、割と簡単に部隊が全滅してしまったりするんですよね。まぁそこは物語を進めるために多少仕方がないとしても、そもそも「他人と共感するとか協調するとかいう発想がないため社会から排除された少年達」という設定のヒーローたちが、最終的に見事と言うしかないチームワークで事を成し遂げて…おっと(笑)しまうというのは、この「戦争ごっこ」にとってかなり決定的なしわ寄せのように見えます。
その中でこの物語には、多数派と少数派の葛藤、というテーマはあちこちにちりばめられており、お話の中では「多数を守るために、少数派が犠牲になるのは仕方がないことか」という形でせり出してきます。この問いに関しても、著者は物語の結末という形で一つの結論を与えているので須賀、それが話のオチである以上ここでは(ry
あと全体的に、物語の世界が非常にリアルに描かれていたのは印象的でした。非常に豊富な取材に基づく情報量で、行政や軍事、医学、爆発などについて正直鼻につくというよりうざったいほど詳細*1な記述がなされていました。特に拷問や射殺といったグロテスクな表現が詳細だったのは、そういった状況に触れることの極端に少ない「平和ボケ」日本への警鐘*2の一つなのかと勘繰りたくなるくらいでした。
肝心の北朝鮮については、正直特に興味をそそられる部分はなかったですね。逆に彼らを語り手の一つとして、違和感なく物語を紡ぐ著者の能力たるや…という話になるのかもしれませんが。
あと最後に一つ。これは立場上、というかわずかな記者経験を踏まえて言わせてもらいたいことがあります。作中では、12万人の北朝鮮軍が福岡に迫る状況下で、福岡の人々の気持ちを尋ねようとする東京のテレビアナウンサーが批判的に描かれています。
…なぜ福岡の人びとの今の気持ちを確かめようとするのだろうか。十二万人の後続部隊がついにこちらに向かったのだ。すべての市民が不安と恐怖を感じているに決まっている…大多数の視聴者は、ニュースで事実を知りたいとは思っていない。単に安心したいのだ…そしてテレビはその期待に応えようとする…
確かに視聴者がそれを求めている側面も、提供する側がそれを意図して情報を出す側面も、あるのは事実だと思います。そしてもちろん、そのために取材をし、発信するということは報道という意味で好ましくないのも認めます。でも、聞いてみなきゃホントにそうかなんてわかりません。ホントにそうか、実はウソなんじゃないのか、それを確かめるのか報道の役目です。本来は。