かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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将軍様に劣らぬ猛者たち?/『世界の独裁者』(六辻彰二)

世界の独裁者 (幻冬舎新書)

世界の独裁者 (幻冬舎新書)

その名の通り、世界の現役独裁者とされることのある20人を、アメリカの雑誌が毎年発表する「世界最悪の独裁者ランキング」に準拠して紹介している本です。日本で「現役の独裁者と言えば?」と問われれば間違いなく第1位に輝くだろう金正日(北朝鮮)をはじめ、有名どころではムガベ(ジンバブエ)、バシール(スーダン)、タン・シュエ(ミャンマー)、カダフィ(リビア)、アサド(シリア)、ルカシェンコ(ベラルーシ)、チャベス(ベネズエラ)、ハメネイ(イラン)や、胡錦濤(中国)、プーチン(ロシア)という大物まで扱われています。
その中には、知名度のあるなしに関わらずアフリカの政治指導者が多く、彼らやその国を取り巻く国際情勢を見ていくと、いかに欧米諸国の人権外交が機会主義的であるかがよく分かります。昨今はスーダンの問題などで「資源欲しさに人権軽視の政権を躊躇なく支援する中国」が槍玉に挙げられるケースがありま須賀、それを批判するスタンスのはずの国々もこっそり、事実上似たようなこと誰でもしているのよ〜♪じれったいじれったい♪をしてきている。その意味において、人権軽視の政治指導者を少女Aのように「特別じゃないどこにもいる」存在にしてしまっているのは誰なのか、私たちも胸に手を当てて考えるべきでしょうし、やや分析的に言えば、資源があったり地政学的な要衝だったりする国で独裁的な強権が振るわれやすい理由の一つというのもそこにあるのかもしれません。
あとちょっと違和感があったのは、「特定の人物による独裁」と「特定の政治勢力による独裁」の区別の部分です。例えばカダフィリビアの大統領でも国王でもなく、今年に入って各方面からあがった「最高指導者の職を辞するべき」との要求に「オレは最高指導者なんて肩書は一切持ってない!オレは大佐だ!文句あるか!」と吠えたという話も伝わってくるように、制度的な立場を超えたところで政治的影響力を行使してきました*1。一方で、中国では共青団系から太子党系へと、異なる政治的出自を持つ人物への政権移譲が行われることがほぼ決まっており、毛沢東をそう呼ぶのはともかく、現在の中国の体制は「胡錦濤による独裁体制」ではなく「中国共産党による一党独裁体制」と呼ぶのがふさわしいはずです。そしてこのような差異の一つのメルクマールとなるのは、私が大好きな個人崇拝的傾向の有無でしょう*2
著者もこのくらいのことは十分承知の上で書いているのでしょうし、「雑誌に載ってる上位のやつを引っ張ってきただけだもんね」と言われればそれまでなんで須賀、そこのところの区別も抑えた上でやってくれれば、よりすっきりすると思いました。
最後に言っておくと、この本の賞味期限はあまり長くありません。今年8月くらいまでの動向は盛り込まれていま須賀、すでにその先の展開が見えている国が多々あります。カダフィは完全に政権の座を追われてしまったようですし、チャベスに関しては健康不安説が囁かれるようになりました。ロシアの次の大統領選にはやはりプーチンが臨むとのことですし、この本にとって最も重大なのは、ミャンマーにおいて政治改革の動きが始まったように見えることです。本のレビューのオチではありませんが、このミャンマー情勢には最近非常に関心を持っておりまして、これがカレンなどの少数民族の立場にまで踏み込めるものなのか、引き続き注視したいと思っています。

*1:これを「ジャマーヒリーヤ」という体制だと称していたそうで須賀、例えばその体制をカダフィ以外が継承でき得たのか、という問題意識です

*2:トルクメニスタンニヤゾフ像を見ることができなかったことに深い後悔の念を抱いています