かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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レビューです、ええ。

永遠平和のために (岩波文庫)

永遠平和のために (岩波文庫)

カントと永遠平和―世界市民という理念について

カントと永遠平和―世界市民という理念について

「いかにも岩波書店から出ていそうな」カントの高名な著作と、その200年後から見た意義を論じた論文集です。ゼミの教材としてお世話になりました。
『永遠平和のために』でカントは、自由な諸国家の連合による永遠平和実現のための道筋を段階を追って説き、またその一方で、自然の機構のはたらきそのものが永遠平和の到来を保証する、という形での議論の補強を図っています。そして論文集の方では、1795年の『永遠平和のために』の公表から200年の間の歴史の経験と、グローバル化などによる政治・経済状況の変化を踏まえ、カントのこの提言をいい意味で乗り越えていこうという様々な試みがなされています。そこではカントが世界政府ではなくあくまでも国家連合を目指したことに対する批判*1や、現代の状況を鑑みてもっと主権を差異化されたものとして再定式せよ、みたいな議論は出てくるんで須賀、それでも民主的平和論や経済的相互依存論といった、極めて現代的な平和論につながる発言をカントが行なっていたこと、それはこの『永遠平和のために』が、18世紀を生きた哲学者先生の平和を願う一時事論文ではないことをよく表しているのではないでしょうか。そして何より、イラク戦争を支えたアメリカのネオコンと呼ばれた論客たちの議論が、この民主的平和論のあり方に大きな一石を投じた昨今の状況を考えると、今だからこそ紐解く価値のある一冊*2ともいえるのではないかと思っています。
ただまぁ薄いとはいえ、『永遠平和のために』は読みにくいっちゃ読みにくいですよね。いわゆる「三批判」で展開された彼の理性に関する議論を(読んでないのに!)踏まえながら議論するというのはなかなか大変ではありましたし、論文集についても論文の著者について同様の苦労がありました。って愚痴を言ってもしょうがないんで一つだけ気になったことを言うと、さっきもちょっと触れたカントの「永遠平和を導く自然そのものの働き」(=摂理)ですね。私たち人間はその自然の合目的性を理性によって認識することはできないんだけれどもそうなっちょる、というのがカントの主張なんで須賀、そういう目的論的というか、ちょっと今風(?)に言えば「実は見えないところに自然の『中の人』がいて、そいつが永遠平和が実現するように細工してるんだよね」みたいな物言いは好きになれなかったですね。論文の中でここにまともに取り合ってる人もいませんでしたけど。
あんまり長々やるとあまりわかってないことが露見しそうなのでこの辺で…w

*1:まぁそこが実質的にどう違ってくるんだって話にもなりましたね

*2:このテーマについては論文集のあとがきやハーバーマス論文も参照なさるとよいのかと思います