- 作者: 竹中治堅
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/05
- メディア: 単行本
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この半世紀を超える歴史を追う中で著者が持ち続けているのは「参議院での審議を見るだけでは、参議院の影響力は分からない」という視点です。それはこの本が触れていない菅内閣の国会戦略(の稚拙さ)を見ればより明らかで、衆議院で過半数を優に超える議席を持っておきながら、昨年夏の参院選で過半数を失ってしまったがために、社民党(衆議院での再可決)と公明党(参議院の過半数確保)の二兎を追って両方から足元を見られるという苦境にあったわけです。参議院に法案が回ってくるまでの調整や(衆議院での)修正も含め、より大きな政治過程から参議院の影響力を検討するやり方には納得させられました。
その上で興味をそそられたのが、上で言うところの(3)と(4)の時期で、内閣が参議院の多数派からの支持を調達するために採った戦略の違いです。(3)の時期、宮沢内閣などは、PKOなどの難題を特定の党と連立を組むことではなく、野党と修正協議をすることで解決しようとしてきました。一方で、(4)の時期に小渕内閣が目指したのは、自由党・公明党と連立することで安定的に過半数を確保することでした。この違いはどこから来るのか。一つには、衆議院の小選挙区で選挙が行われる中で、与党の打倒を目指して行動する対抗的で非妥協的な野党が登場したことがあるで生姜、その対照をモデル的に、あるいはより具体的に説明できればよりよいのかなと感じました。
また、立法に慎重を期すための二院制の趣旨は生かしながら、かつ妥協も成り立ちやすい(=「再可決」時代のような正面衝突が起こりにくい)参議院になるよう、多党制的な選挙制度を模索すべきという著者の提案には個人的に賛成です。ただその提案は、ここまでの議論からの演繹のみならず、多様な意見の反映による妥協と権力の抑制が議会の場で十分になされるべきだという、多分にシュンペーターよりはレイプハルトが好きそうな(二大政党制による多数決よりも、多党制での妥協をよしとする)議会観・民主主義観にも、多少なりとも拠っている印象を受けました。「個人的」と敢えて述べたのはその意味でもあります。
さてさて、この本で主眼的に分析されていたのは、自民党政権下での参議院のあり方でありました。そしてこれを書いている現在、政権の座にあるのは民主党で、前述の通り、菅内閣の動向は参議院について検討するためのよい「素材」になってくれそうです。民主党政権で参議院はどう機能するのか。震災で「政治休戦」との声も聞かれま須賀、予算関連法案の成否が焦点となる今こそ、その動きに目を凝らすべき時でしょう。そういう意味でも、実にタイムリーな本*2と言えるかもしれません。