かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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「エネルギー込み上げる感じ」=歌織被告に再質問−心神喪失鑑定受け・東京地裁
外資系会社社員三橋祐輔さん=当時(30)=殺害事件で、殺人と死体損壊などの罪に問われた妻歌織被告(33)の公判が12日、東京地裁(河本雅也裁判長)であり、心神喪失と診断した精神鑑定結果を受け、改めて被告人質問が行われた。歌織被告は「エネルギーが込み上げる感じだった」と事件当時の精神状態について語った。
歌織被告は鑑定医に「犯行直前に地響きのような感情が沸き上がった」と説明したことを尋ねられ、「地球上の全部のエネルギーが自分の中から込み上がってくる感じだった」と述べた。
殺害状況については、「手にしたワインボトルが重くて嫌だと思い、振り下ろした」と説明。殴る場面は見ておらず、頭を狙ったわけではないと訴えた。
遺体の頭部を捨てた際には、肩の上にいる夫の幻覚と会話する中で、「置きっ放しにはできないだろう」と言われ、公園に埋めることにしたと供述。逮捕後に警察署で、鏡に映る夫の姿も見たとした。
調書に幻覚体験の記載がなく、公判でも触れなかったことは、「警察で説明したが信じてもらえなかった。(法廷では)自分が犯人には違いないので必要ないと思った」と主張。鑑定医に話した理由は「鑑定のためという意識ではなく、カウンセリングという感覚だった」と供述した。
事件後、血の付いた布団を処分するなどした行為は「(自分のやっていることを)分かってやっていた」とした。
(3月12日、時事通信)

【セレブ妻公判】検察「再鑑定」も検討 「心神喪失」鑑定の手法めぐり混乱
東京都渋谷区の外資系金融会社社員、三橋祐輔さん=当時(30)=の切断遺体が見つかった事件で、殺人と死体損壊・遺棄の罪に問われた妻の歌織被告(33)の第10回公判が12日、東京地裁(河本雅也裁判長)で開かれた。検察側、弁護側双方の鑑定医が資料を共有し、共同鑑定ともいえる形で鑑定を行ったことについて、河本裁判長は「裁判所が共同鑑定を命じたことはない」と述べた。
河本裁判長は公判の冒頭、鑑定方法について「鑑定人は、それぞれに宣誓をし、鑑定の選任手続きを行った」と述べ、共同鑑定を前提に委託していないことを説明。しかし、鑑定の途中で両鑑定医から資料を共有していることなどの報告を受けていたことを明らかにした。
前回の公判で両鑑定医は、資料を共有し心理テストなども分担して行ったことを認めている。鑑定結果の報告でも、犯行に至る経緯と、犯行の前後にわけて、それぞれが説明するという方法を取っていた。
検察側は、共同鑑定として委託されていないことを理由に、再鑑定の請求も検討している。
また「犯行時は心神喪失状態と推認される」との精神鑑定の結果を受けて行われた被告人質問では、歌織被告は犯行前後の行動について「覚えていない」などあいまいな供述を繰り返した。
これまでの公判で、歌織被告は検察側の質問に対し、犯行前後の行動については明確に行動を説明していたが、今回の公判では犯行時の明確な記憶がないとの供述に終始した。
公判では、検察側、弁護側双方の鑑定医がいずれも、犯行時の歌織被告は「短期精神病性障害」という精神疾患を発症していたとの診断を報告。「行動を制御する能力を欠いた心神喪失状態だったと推認できる」としている。裁判所が犯行時の歌織被告は心神喪失状態だったと認定すれば、刑法の規定で刑事責任は問われず、無罪となる。
起訴状によると、歌織被告は平成18年12月12日早朝、自宅で就寝中の祐輔さんの頭をワインの瓶で殴って殺害。遺体を切断し、タクシーと台車で新宿区内の路上や東京都町田市の公園などに運び遺棄した。
(3月12日、産経新聞)

<夫殺害切断>歌織被告「幻覚体験、怒られて話せなかった」
東京都渋谷区の会社員、三橋(みはし)祐輔さん(当時30歳)を殺害し切断した遺体を捨てたとして、殺人罪などに問われた妻歌織被告(33)は12日、東京地裁(河本雅也裁判長)の公判で「幻覚体験を警察に話したが怒られるだけだったので、弁護人にも話していなかった」などと述べた。
10日の前回公判で2人の鑑定医が「事件当時は刑事責任を問えない心神喪失状態だった」と報告したことを受け、この日は改めて3回目の被告人質問が行われた。心神喪失の根拠の一つとされた幻覚体験について、これまで歌織被告は法廷で全く語っていなかった。
河本裁判長がその理由を質問すると、歌織被告は「警察に話したら『罪の意識があるからそう見えただけ』と言われ、うそや錯覚だと怒られるだけだった。変なやつと思われたくなくて、弁護人にも話さなかった」と答えた。法廷でも同じ理由で話さなかったという。
鑑定医に幻覚体験を話したのは「鑑定のためというよりは、行きたくて仕方なかったカウンセリングの代わりの形で、話しにくいことを話させていただいた」と説明。殺害時の精神状態については「地球上の全部のエネルギーが込みあがってくるような、わーっという感覚がした」と述べた。
一方で、血の付いた家具を捨てたり、捜索願を出すなどの隠ぺい工作をしたことについては「分かってやっていました」と話した。
鑑定報告によると、歌織被告は鑑定医に対し「血を流す女性の姿が見えて、『助けて』と声がした」などと幻覚や幻視体験を話したという。これに対し検察側は、責任能力があると主張している。【銭場裕司】
(3月12日、毎日新聞)

実はこの公判を傍聴してきた*1んで須賀、同じ2時間の公判がこれだけ違って報じられるというのはやっぱり面白いですね。私はこの事件について詳細に追ってきたわけではないので何とも言えない部分も大きいので須賀、個人的に一番近い視点を持ったのは最後の毎日の記事でしょうか。
今回の公判の多くの時間は、検察官が被告人の鑑定医への供述と、公判その他での供述の矛盾を暴くための被告人質問に割かれていました。その中で検察官は、私が見る限り犯行前後の被告人の記憶をかなり乱暴な形で*2問いただし、被告人との間に不毛な会話を繰り返していたように思えます。それは両者のやり取りにおける機微からの印象でももちろんあるので須賀、もう一つ、彼女が受けてきただろう、そしてこれまで多くの刑事被告人が受けてきただろう取調べのあり方を想起したときの、ある疑問から発したものでもありました。
それは、度重なる取調べによる被告人の「記憶」の「形成」です。多くの人は殺人などの大きな犯罪を犯すとき、少なからず気が動転したり、昂ぶったりするもののようです。この事件における被告人の場合、「地球上の全部のエネルギーが込みあがってくるような、わーっという感覚」というのがそれに該当するのかもしれません。そして彼女はそんな状態の中で夫を殺害するに至るわけで須賀、例えば逮捕前の時点で、当時の彼女の精神状態について彼女はどう認識していたのでしょうか?*3
また彼女は逮捕された後、警察・検察と取り調べを受けることになったわけで須賀、その際に今日の公判のような、あるいはそれ以上の誘導的な取調べがなされていたとしたら、その取調べが彼女の「記憶」にどう影響を与えるでしょうか? もし犯行前後の興奮した状態、自分自身でも自分の状態がよく把握できない状態に関して執拗に同じ質問が繰り返され、「こう思ったんじゃないの?」「罪の意識があるからそう見えただけ」などど畳みかけられていたとすれば、その後に行われる公判で犯行当時の記憶を問いただしたとしても、どのくらい意味があるのか非常に疑問に思いました。
さっきもちょっと注を入れたように、あくまでこれは被告人側の主張でしかありません。しかし、そもそもあいまいになりがちな記憶というものについて捜査段階で執拗な取調べを行うことが、被告人の「記憶」に与える影響は無視できないと思いますし、そういった強引な捜査手法が被告人の権利のみならず、公判における真実究明という利益をも侵すことも大いにありうるのではないかと、目の前で困った顔をしている当の検察官を見ながら思いました。

*1:と言うよりは「たまたま行ったら傍聴券の抽選に当たったので見た」という感じで須賀w

*2:そう裁判官にもたしなめられながら

*3:まさしくそこが争点なんでしょうけども