かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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天と地と 上 (文春文庫)

天と地と 上 (文春文庫)

天と地と 中 (文春文庫)

天と地と 中 (文春文庫)

天と地と 下 (文春文庫)

天と地と 下 (文春文庫)

上杉謙信を題材にし、その出生から第四次川中島合戦までを描いた長編の歴史小説です。各登場人物が生き生きと、そして合戦の様子が淡々と描かれるコントラストが心地よく、文庫本で合計1500ページ近くあったにもかかわらず楽しく読むことが出来ました。もちろん主人公の謙信は天才的な軍略を持ち、また一般的な評価よりは謀にも長けた人物として登場していましたが、なんと言っても宇佐美定満(作中では定行)はカッコよすぎでしたww
小説なので話のオチとかにはなるべく触れたくないので須賀、この小説がなぜ『天と地と』というタイトルなのかについては考えてみざるを得ませんでした。私の仮説はこうです。義理を重んじ古来からの権威を奉り、毘沙門天を敬い生涯不犯を貫き、清濁合わせ呑まない性質を持った謙信の世界観こそが「天」であり、約定違反や謀略が渦巻き、しばしば色情に溺れるような生身の人間たちが生きる現実世界が「地」なのではないか。謙信はその半生において、兄である長尾晴景や宿敵・武田信玄のように「地」に生きる人々を軽蔑し、あるいは嫌悪しながら「天」を仰ぎ、その理念を「地」に遍く広めんと努力を重ねるので須賀、それはやはり容易なことではありません。そして謙信と現実世界を、つまり「天と地と」を繋いでいるように見えた人物の訃報に触れて、自分の生きてきた「天」の世界の、ある種の「むなしさ」に謙信は気付き嘆息するのです。
もちろん明確な答えのある性質の問いではないでしょうが、「天と地と」のコントラストを理想と現実の相克と捉えるアイデア(?)はあながち悪くはないんじゃないかと思っています。