かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

著名な地震学者である著者が研究費を巡る問題に巻き込まれた結果、いかに逮捕されてどのような環境の中で保釈までの時を過ごし、いかに裁判を戦ったのかを、精緻で冷静な視点から描いた本です。タイトルにあるように、彼が「なぜ逮捕され」たのかについて具体的な言及はない*1一方、「そこで何を見たか」については驚くほど詳細なことがらを、実に淡々と述べています。お叱りを受けるのを覚悟で言うなら、この著者の筆致というのが自分の旅行記の時のそれに少なからず似ている気がして、それと言うよりこの本の表現の迫真力ゆえということなのかもしれませんが、電車の中で読んでいてふと目を上げたとき、あたかも私自身が著者のような立場に立ったような、つまり逮捕され拘置された身であるかのような、そういう錯覚を一度や二度ではなく覚えました。
また、著者の一連の司法制度への関与*2とそれにまつわる現状解説から、実際に日本の刑事訴訟がどのように展開され、関連諸法がどのように運用されているかについて理解することもできました。その意味では、法学部の教科書みたいな扱いの刑事訴訟法の本とあわせて読むと面白いかもしれませんね。ちなみにこの本については*3、このブログの刑事訴訟法の本のレビューを見てくださった方が紹介してくださいました。
ただ一つだけ言うなら、やっぱりタイトルにあるように彼が「なぜ逮捕され」たかについて、もう少し分量を割いてほしかったですかね。確かにこれでも十分読み物として成立しているので須賀、途中やや冗長な部分や内容の重複もあったと思いますので。

*1:本人もそれを認めています

*2:つまり捕まったり裁判受けたりしたことのことです

*3:表現に正確を期せば「この本の著者については」