かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『贈与の歴史学』(桜井英治)

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)

金銭の贈与を相殺したり、去年と違う贈り物は突っ返したり、はたまた贈与を受ける権利を贈与したり…。現代の日本社会とはかなり異なった様相を呈した15世紀の贈与について、豊富な事例とともに紹介する本です。読み終えてからしばらく放置していたので中身をあまり覚えていないので須賀(笑)、それゆえに一言で感想を言ってしまうと、非常に形式的で非人格的*1な当時の贈与の性格は(であっても)、人間社会にとって贈与のループは必須のものであるというような構造主義的な知見とも十分親和的なんだろうなあ、と感じました。著者も指摘しているように、贈与を効率的にやり取りするためにそのような「進化」を遂げた、という側面はあるように思うのです。
また著者は、そのように当時の贈与は特異な発展を遂げながらも、商売との境界線を超えることはなかった、と強調しています。そこが個人的にはしっくりこなかった点なので須賀、確かに私たちは贈与を論じているわけですけれども、その当事者たちが、著者が言うところの「贈与経済と市場経済の境界」を果たしてどこまで意識していたのかと言えるのでしょうか。その点については、あえて言う意味があるとはちょっとあまり思いませんでした。
それでも、先述したように非常に豊富で具体性に富んだエピソードがあちこちにちりばめられていますので、読んでいて飽きることはありませんでした。言ってしまえば、「贈与がどうのこうのなんて別にどうでもいいや」という人でも、歴史が好きなら十分楽しめる、そんな本だと思います。

*1:贈与に関する手落ちなども非常にドライに処置された