かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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東南アジア政治の研究者である著者が、まさに副題にあるように「ナショナリズムの起源と流行」について、その世界史的な過程を述べた本です。日本*1を含む世界各国にわたる極めて豊富な事例と多角的な視角によって、国民共同体意識の萌芽からその世界レベルでの拡大までの過程が、非常に説得的かつ冷静に論じられています。その意味では、同じく東南アジア政治を専門とする藤原帰一教授が講義でこの本を紹介する中で、「同業者として悔しいと思えるほどすごい」と評したのも理解できる気がします。
その一方でアンダーソンは、ナショナリズムという現象に対して主観的な評価をすることを慎重に避けているようにも見えるのです。その彼の姿勢は、初版部分の最終章に登場するヴァルター・ベンヤミンの、屍が積み上げられていく過去のほうを向きながらも彼らを蘇らせることはできず、ひたすら未来へと向かうことを強いられる「歴史の天使」の姿を彷彿とさせます。「しかし」とアンダーソンは続けます。「この天使は死なない。そして、我々の顔は前方の未明へと向けられている」。私たち一人ひとりがアンダーソンのこの成果を踏まえ、「前方の未明」をしっかり見据えねばならない―それが彼のメッセージなのではないでしょうか。(1月5日、成田→アムステルダムの機内にて)

*1:注のところで、日本のナショナリストからすると割と衝撃的(?)なことがあっさりと書かれていて面白かったですw