かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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政治的に正しいおとぎ話

政治的に正しいおとぎ話

「性差別、人種差別、文化差別、国粋主義、地方セクト主義、年齢差別、能力差別、サイズ差別、種差別、知性偏重主義、社会経済中心主義、自民族エゴ、男根中心主義、唯異性愛主義的父権主義、あるいはその他まだ命名されていない偏見」にあふれるとされる「赤ずきん」や「シンデレラ」、「白雪姫」や「ジャックと豆の木」といった童話を、「政治的に正しく」書き直した本です。と言っても個別的な言い回しのみならず、ほとんどの登場人物のキャラクターまでもが「政治的に正しく」書き換えられているので、話のオチも変わってきてしまうので須賀w
恐らく著者は、過剰なまでに「政治的に正しい」おとぎ話に作り変えてしまうことで、いわゆる「PC派」に対する皮肉を放とうとしたのでしょう。そしてその意味では、彼は一定以上の成功を収めたように見えます。ただ、数あるPCに関するイシューをごちゃ混ぜにして、ややオーバーに書き換えるこの手法においては、問題提起やその相対化にはなっても、著者の主張の提示とまで理解することはできないでしょう。
とはいえもちろん、別にそれが悪いことだと言うつもりはありません。オオカミに迫られて、「地獄に行け!この肉食主義の、帝国主義的抑圧者!」と叫びながら「連帯」の歌を合唱し、国連に抗議文を送りつける三匹の小ブタには抱腹絶倒させてもらいましたし、「社会のアウトサイダーとして、直線的な西洋型志向の束縛からは完全に解放されていた」「赤ずきん」のオオカミにも笑わせてもらいました。とても面白かったです。
ではこの本が提起し、相対化するPC論争をどう考えるか? 勉強不足もあり一概には答えられないので須賀、社会の中に社会的差別を受け、その上に言葉によっても辱められている人々や動物達がいる一方で、前にも言及したとおり、絶対に誰も傷つかないニュートラルな表現というものは存在しないわけです。その相克の中で少なくとも一つ必要なのは、PCに一定の理解を示すにせよ「言葉狩り」として非難するにせよ、自らの発する言葉とその意味に自覚的であるということなのではないでしょうか。その意味で、大きな議論と深い考察なく、「放送自粛用語」がいつの間にか事実上の「放送禁止用語」になっている日本の(少なくともマスメディアの)状況には、憂慮を示さざるを得ません。
もともとこの本は前に読んだ放送禁止歌に紹介されていて興味を持ったので須賀、やはりその近くにたどり着いてしまったか、というのがこのレビューを書いた感想ですww