かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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朝日新聞シンポジウム

今日は「討論・日本の新戦略 〜「地球貢献国家」をめざして〜」を見に行きました。これは5月3日付朝日新聞社説21(こちらは私の感想w)を踏まえての討論ということで、以下のようなメンバーで行なわれました。

基調講演・パネリスト:ジョセフ・ナイ(ハーバード大学政治学者)
パネリスト:緒方貞子(JICA理事長、元国連難民高等弁務官)
       王毅(駐日中国大使)
       ジョセフ・キャロン(駐日カナダ大使)
       崔相龍(元駐日韓国大使、高麗大学)
       小林陽太郎(富士ゼロックス相談役最高顧問)
       五百旗頭真(防衛大学校長、政治学者)
       浅岡美恵(NPO法人気候ネットワーク代表、弁護士)
       伊勢崎賢治(東京外国語大学、平和構築と紛争予防講座長)
       目加田説子(中央大学)
コーディネーター:<討論1>若宮啓文(朝日新聞論説主幹)
           <討論2>高成田亨(朝日新聞論説委員)
(いずれも敬称略、プログラム掲載順)

実は討論2の途中で飽きて出てきてしまったんで須賀(藁)、ちゃんと聞いていた討論1のところまではレビューしてみたいと思います。ちなみにこの内容が私の理解・記録に基づくものである*1ことはご理解ください。まぁ言うまでもないことで須賀念のため。

前半ではソフトパワー概念を、「世界政治における三次元チェスゲーム」*2の比喩などを用いて概説的に論じていました。これは彼の著した『ソフト・パワー』を20ページぐらい読めば大体出ているような内容だったので*3、ここでは割愛します。そして、明治維新と戦後民主化という形でグローバル化などによる外的環境の変化にうまく対応してきた日本は、今のグローバル化に対して下の二つのチェスボード*4で力を発揮すべきだと主張します。具体的には①温暖化への対応、②感染症対策、③貧困削減、④紛争防止、⑤民主主義と人権の擁護、⑥「文明」の橋渡し、⑦東アジアの安定、⑧国際制度の発展、などを指摘していました。ただ彼はハードパワーの有用性・必要性についても強調しており、日本の憲法9条の問題については「国内の問題として解決すべきだ」とは言いながらも、集団的自衛権の行使について前向きとも取れるニュアンスの発言もありました*5

  • 討論

〜まずはそれぞれが10分程度の発言でした〜
緒方)グローバル化の中で国家の役割に限界が見えてきている。国際社会は人間の安全保障の確保のため、一歩踏み込んだ行動に出るべきだ。ただどのような形をとるべきかは精査が必要だ。
王)中国の発展における問題は大きく分けて二つある。中国経済の発展段階を正しく認識し、調整することと、発展のアンバランスを是正することだ。これらについては日本の経験を踏まえ、そこから学んでいきたい。その上で中国は、調和の取れた世界の実現を目指す。朝日新聞の社説21は評価している。それに加えて、日本が東西*6南北*7の橋渡し役をになうことを期待している。そのためには日本がアジアに立脚し、日中が相互補完的な関係を築くことが必要だ。
崔)憲法9条の存在は、現実には強いハードパワーを持っている日本に平和国家としてのイメージを与えるのに大きく寄与している。また六カ国協議における日韓の非核イニシアチブを提案したい。このように社説21の内容自体は評価しているが、今の日本の現状がどうなのか心配している。
キャロン)カナダが国際的な平和構築の枠組みに参加する理由は大きく分けて四つある。それは①スエズ動乱以来の参加の歴史、②国内における幅広い支持とリベラルな理念、③自国の強みと弱みを客観的に分析するリアリズム、④国際協調外交の重視、である。ここからは日本についてだが、今回の「地球貢献国家」という言葉には何か「世界に遠くから貢献する日本」というイメージを受けた。世界の一員としてのニュアンスをもっと出すべきではないか。また日本は9条の下でももっと国際貢献ができるのではないかと考えるが、一方で活動の中で死者が出る可能性についても議論と覚悟をすべきだ。
五百旗頭)日本は国際公益の世話役の役割を果たすべきだという主張は分かる。日米中の首脳会談の定例化というアイデアにも賛成だ。しかしナイ氏が言ったのはハードパワーとソフトパワーの重層性である。朝日のように「ハードパワーはイヤ」ということでよいのか。
〜そして討論チックに話が展開していきます〜
若宮)カナダがイラク戦争に参加しなかったのは?
キャロン)安保理決議がなかったからだ。国際的な正統性がない活動には参加しない。
五百旗頭)しかしそれは政策的判断であって法による制約ではない。日本はやはり9条を改正し、侵略戦争の否定と自衛権の保持、国際的平和維持活動への参画を明記すべきだ。
崔)9条改正論についてだが、そもそも今の日本をめぐる国際的環境は悪化しているのか。またたとえ「押し付け憲法」であったとしてもそれが国益にかなうならば守るべきではないか。
緒方)実際の戦闘行為と人間の安全保障のための平和維持活動の区別をどうつけるのか、五百旗頭氏にお聞きしたい。私は9条を変える必要はないと思っている。
伊勢崎)私としては、どうして大義のあるアフガンでなくイラク自衛隊を派遣したのか疑問だ。
目加田)「日本は極東のカナダだ」という言い方をされることがあるが、それはODAPKOなどによる積極的な活動と、9条による安心感があってのことだ。また「国際貢献」はいいが、そのために血を流す覚悟がどれほどあるのか疑問だ。
五百旗頭)日本の国防費は世界第5位だが、日本の自衛隊には攻撃能力はない。国際協力については、93年のカンボジアPKOへの自衛隊派遣が改憲支持の拡大につながっているといえる。
若宮)王氏に二点聞きたい。まず中国の軍事費の問題について国際的な懸念が広がっているが、どう考えるか。また日米安保は中国にとって不安材料か、それとも安定を提供していると見るか。
王)まず軍事費についてだが、これは80年代の軍事費の伸びが実質マイナスだったからであり、また人件費の激増による部分も大きいので周辺国の脅威とはならない。しかしその透明性を高める努力はさらに進めていきたい。日米安保については、他国の問題への干渉には慎重であってほしいと思う。
小林)日米中の定例首脳会談には賛成だが、どのような位置づけでそれを行なうのかには注意すべきだ。また社説では自衛隊を準憲法的な法律で位置づけるとするが、それなら憲法で位置づけを行なってもいいように思う。
若宮)環境問題について浅岡氏に伺いたい。
浅岡)二酸化炭素による温暖化について近年中国などに非難が集まっているが、蓄積排出量を考えると先進国に大きな責任がある。
王)中国としても環境と経済の両立を模索しているが、発展途上国である我々には先進国並みに経済発展を遂げる権利がある。
若宮)時間がなくなってきたので議論を整理したい。憲法9条には①日本の中の位置付け、②日米安保と9条、③国際貢献と9条という三つの問題があることが分かった。最後にナイ氏の意見を伺いたい。
ナイ)靖国神社遊就館の歪んだ歴史観を克服した日本は、民主主義が成功していると思う。その中で9条に関して議論が行なわれるのなら、どのような結論に至ろうとも安心してみていることができるのではないか。

  • 感想

要約だけ書いても仕方がないので簡単に。
まずナイの議論は五百旗頭真の言うとおり、ハードパワーとソフトパワーの相互的な活用です。そして私には、その一種のリアリズムが彼の議論の土台を支えているように思えるのです。つまり、ソフトパワーだけを強調し、ハードパワーを不必要に忌避する言説は、恐らく幅広い支持を得ることはできないのではないかということです。そう考えた時に、朝日の今回の社説はどうでしょうか。何となくキレイゴトに聞こえてしまうのはこのことと無関係ではないように思います。てか若宮さん9条にこだわりすぎwww
もう一つは王毅大使の立場です。ご覧になれば分かるとおり、非常に厳しい中で討論に参加していました。それゆえかいくつか言い訳じみたような発言もあったように思います。その中で最も印象的だったのは「発展途上国である我々には先進国並みに経済発展を遂げる権利がある」でしょうか。「発展途上国」という言葉を上手に使っているなぁというのももちろんなので須賀、温室効果ガスの過剰な排出が地球環境に深刻な影響を与えているという認識に国際的なコンセンサスがある現在、それがなかった、ないしは薄かった時代の先進工業国の振る舞いを楯にすることは道義的に許容されるべきではないと思います。じゃあ先進国は地球温暖化について完全に「善意」だったかというとそれも疑問ではありま須賀。
まぁこんな感じですかね。正直そこまで面白いとは感じませんでしたが、確かに王毅は見てて面白(ry

*1:朝日新聞としても後日掲載するのではないでしょうか、知らないけど

*2:古典的な主権国家間の軍事関係―国際的な経済関係―(国境を越えて存在する)多国籍関係、の三層のことです

*3:実際そのくらいしか読んでいない自分にとってほとんどが既出の内容だったw

*4:注の国際経済と多国籍関係

*5:結局日本語で聞いたので微妙な部分もあるかもしれませんが…

*6:アジアと欧米

*7:途上国と先進国