かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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大方針を掲げて進めた日清戦争期外交の記録/『蹇蹇録』(陸奥宗光)

新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録 (岩波文庫)

新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録 (岩波文庫)

日清戦争から下関条約締結、さらには三国干渉までの激動期に外務大臣を務めた著者が、その期間の外交について記録したものです。個別の出来事に触れるのは避けま須賀、(1)なるべく平和裏に清との勢力均衡を図る(2)その際なるべく自らを「被動者」(受動的に動く側)の位置に置くこと(3)列強など第三国との関係を避けること、という三項目を大方針として掲げ、国際法をも盾にしてさまざまな局面を乗り切っていったことが記されています。
条約締結に向けた最終局面で、(3)ゆえに列強への根回しを避けてきたことが一見裏目に出るような形で*1三国干渉がなされ、遼東半島を返還するに至るわけで須賀、これについては著者の「弁解」するように、一々各国に根回ししていては収拾がつかなくなり、実際に得られた条件までも失われた可能性がある、というのはあながち間違った見方ではないでしょう。どちらにしても多難の道であることは疑いなかったわけで、ここでは双方の手法を採ることの得失より、どちらか選んだ手法を(ぶれずに固執せずに)上手く適用していくことができたかどうかという評価の仕方でもよいように思えます*2。ちなみに三国干渉について著者は、露仏同盟の分断を狙ったドイツが、日本の大陸侵出に懸念を増しながらも踏み出さずにいたロシアをけしかけ、フランスは関係上乗らざるを得なかったものと分析しており、その点もまた興味深く感じました。
要は結構面白く読めたので須賀、一方で個人的に印象に残ったのは(当時の)外交の手法や戦術についてでした。各国駐在の公使が相手国のどんな人とどういう形でやり取りをしているとか、例えば日本とドイツの二国間関係に関するやり取りが第三国であるはずのイギリス駐在の両国外交官の間でなされていた*3とか、本国からの電信が届くまでのタイムラグという技術的な制約があったとかという、恐らく著者自身の記述の眼目でなかったろう部分が、(当時の)外交の生の現場を映し出していて面白かったです。まあ一番驚いたのは、清の李鴻章らが日本との和戦をめぐってやり取りしていた電信が日本側に筒抜けだったことなんですけどねwww

*1:少なくとも口実のようには使われました

*2:その点で一定以上の評価をしていいというのが私の感想で須賀、話は戻って(1)について、日本側がどれくらい誠実に平和裏な解決を求めていたかは当然、議論の余地があるでしょう

*3:三国干渉の時期のことで、これについては著者も通常のやり方ではない旨を書き残しています