【目次】
中世史講義&戦乱編
歴史講義シリーズの中世編です。
中世は、ウジからイエに社会の基本的単位が移り、公家や寺社・武家など有力な諸団体が公的な性格を備えて分立した時代でした。その中で荘園などを巡る権利関係が複雑化し、各地で権益争いが続いていたことが、戦乱が度々全国化する「導火線」となっていたとされます。
そうした時代のさまざまな表情を、2冊計30の論考から明らかにしています。
個人的に興味深かったのは、▽承久の乱後に天皇に即位したことのない守貞親王という人物が「治天の君」(天皇家の家長)となったこと(そうしてまで治天の君が必要とみなされたこと)▽禅宗では今風に言えば寺の「事務方」を担う僧たちも尊重され、水墨画などの文化や算術などに大きな貢献をしたこと▽15世期の鎌倉府を巡る争乱が応仁の乱の一因ともなっていること▽晩年の日野富子が将軍家を代表する人物とみなされていたこと▽文禄の役と慶長の役では日本側の戦略的な狙いが違ったこと(前者は敵の完全打倒、後者は領土の一部占領を目指していた)ーなどでした。
やはり戦乱がテーマとなると話が派手で面白いんですけど、それだけではなく、その合戦がなぜ起こって、それが以後の政治や社会にどんな影響を与えたかについてまでしっかり論じているものが多く、非常に勉強になりました。
観応の擾乱
その意味では、合わせて読んだこちらも学ぶところが多かったです。
極めて錯綜した推移を辿るため、その説明は私の手には余ります。ただ、先述の要因と影響というところで簡単にまとめるなら、「足利尊氏・高師直、次いで足利直義の恩賞配分・訴訟手続きへの不満から、南朝や尊氏の不遇の子・直冬を交え、敵味方が目まぐるしく変わる大混戦が展開されたものの、乱が終結する頃には幕府への貢献が一定程度報われる安定した仕組みをつくり上げた」というところでしょうか。本当にオセロゲームのように敵味方がひっくり返っていくので須賀、それこそ『中世史講義』で指摘された複雑で全国化した権利争いが下地にあってのことなのでしょう。
本書では、複雑な戦いの過程を(時にツッコミを交えながら)臨場感たっぷりに追っており、ある種の軍記物語的な楽しみ方もできます。その一方で、当時の室町幕府という政権の機構や活動・人事を詳細に論じているところも特色かなと思います。それがあればこそ、乱の影響という論点に踏み込めるのだと感じました。
その上で最後に言うなら、やはり足利尊氏・直義兄弟というのはどうも憎めないコンビですね。性格や長所が大きく違い、最終的にはお互い刃を交えて全国を戦禍に陥れながらも、結局仲のいい兄弟だったんだろうなと思わせる二人の言動と、そこから滲み出る人間臭さ。
canarykanariiya.hatenadiary.jp
こちらを読んだ時も感じましたが、魅力的な二人組だなという感を強くしました。