小泉純一郎元首相の訪朝および日朝平壌宣言の立役者として知られる、元外交官による本です。日本にとって重要な米中や南北朝鮮の情勢や今後の見通しについて経験*1を交えて語りつつ、外交官や官僚、政治家、そして広く日本人に求められるプロフェッショナリズムについて論じています。
アメリカを筆頭に内向きの政策を進める国が増え、しばらくは中国の台頭が進む、という見通しは突飛なものではないでしょう。
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こちらの本だともっと遠くを見る話が中心ではありましたが、重複する指摘も多かったと思います。
一方で、それこそ秀吉の時代からの歴史を踏まえ、朝鮮半島情勢への真摯なコミットメントの必要性を説いていたのは印象的でした。
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例えばこちらの本では、日韓それぞれにとって相手との関係が重要でなくなってきている様をクールに描いていましたが、著者はそれも知った上で「朝鮮半島とともに生きていくことなくして、日本の恒久的な平和は達成されない」と喝破します。この言葉は、歴史を知り、未来を構想してきた外交官の見識が表現されているのだと感じました。
最後は、プロフェッショナリズムについてです。「民主党時代の「官僚抜きで政治家が決める」というのも、現政権のように「人事権を盾に官僚を思いどおり動かす」というのも、本来の政治主導ではない。政治主導の本当の意味は、「強い政策を作り、それが政治家の責任によって実行される」こと」。
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この時の議論を思い出しました。与野党の政治家が、そして彼らを選ぶ有権者が、虚心坦懐に噛みしめるべき言葉でしょう。
書名になっている「見えない戦争」は、冷戦や外交戦争といった国家間の対立というよりは、広く国内・国際社会に生じている歪みや摩擦をも含んだ概念として用いられているようです。やや抽象度の高い括りかなとは感じましたが、プロフェッショナリズムを追求した著者による、考えさせられる点の多い議論だったと思います。