かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
ブログランキング・にほんブログ村へ

[レビュー]イノベーションのジレンマにどう抗するのか/『2050年のメディア』(下山進)

 

2050年のメディア

2050年のメディア

 

読売新聞、日経新聞、そしてYahoo!にフォーカスして、インターネット時代のメディアのあり方を巡る様々な構想や駆け引きを取材した本です。

電子版普及を進めて経営に大きく貢献するほどにまでなった日経と、最強の販売店網を擁し、紙メインの施策を変えない読売という好対照な両新聞社に加え、その間にプラットフォーマーとして成長し、地位を確立したに見えるYahoo!という3者の「勝負の分かれ目」となった瞬間を丹念な取材を通じて描いています。その中で、各社の置かれた状況や判断はそれぞれでありながら、読売、そしてYahoo!までもが「イノベーションのジレンマ」に陥っているのではないか、と著者は示唆します。

イノベーションのジレンマとは、ある市場で圧倒的に強かった企業が、(それが可能な経営資源を持ちながら)技術革新がもたらす新たな市場に十分な投資をせず、結果的に次代への適応に失敗してしまうことを指します。販売店網による紙面拡張と、デスクトップ時代のポータルサイト化において最有力を占めた読売とYahoo!。「次の市場に踏み出さなくていい」と考える経営幹部はいないで生姜、大企業化する中で、各人が、そしてその集合体としての組織として、リスクのある選択を避ける傾向はあるということでしょうか。

私自身が今、この本が対象とする世界の末端で仕事をしています。ノアドットを立ち上げた中瀬氏のように「次の歴史を書く」ことを志すなら、恐らく必要なのは多様なインプットに基づく構想力と、それをアウトプットし、実現させていくための(様々な意味における)リソースなのでしょう。そしてもっと言うなら、この物語に登場した魅力ある人物たちは、決して後世の評価を得るために東奔西走したわけではないはずです。ある人は新聞社の立場から、またある人はインターネット企業の立場から、市民社会において正確性のある情報を適切に流通させていくため、試行錯誤を重ねているのだと信じます。

2050年のメディアを、そして社会をよりよいものにするための挑戦に、私も加わっていきたいものです。

 

 

ブログランキング・にほんブログ村へ