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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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「身の丈」発言と格差の深淵/[レビュー]『教育格差』(松岡亮二)

 

教育格差 (ちくま新書)

教育格差 (ちくま新書)

 

データを駆使して日本が「凡庸な教育格差社会」であることを示し、その先を展望する本です。

いつの時代にも生まれ(世帯収入にも関連する親の学歴)による教育格差があり、その影響は未就学児期から生じていること、公立小学校ですら地域による差が大きいこと、そして高校受験までの選抜によって顕在化する格差は、学業成績だけでなく生まれによるものでもあることなどが説明されています。

やはりこの本は、2つの視点から語らざるを得ない気がします。まずは、著者がここで論じているような社会問題としての教育格差についてです。

指摘されているように、十分なデータもなく、即ち政策の成果に対する検証も足りない状態でまた次の「善意の」施策が繰り返されていく現状、そしてその最中にもどうやら格差が拡大しつつあるらしいというのは憂うべき事態だと思います。特に、「日本の教育は横並び」という印象が強い中で、親の学歴などの生まれによる格差が定着、強化されつつあるというギャップは、今後重大な影響を与えかねません。

最近では、文部科学大臣による「身の丈」発言も批判を集めました。この発言自体は論外としても、まさに「地域という生まれの格差」なる、この本で指摘している論点そのものを(文科相がどこまで現状を理解しているかはともかく)指し示す言葉ではあるわけです。その意味では、今の日本における教育格差という深淵を覗き見るような、発言の無責任さ以上にざらっとしたもののある一幕だと言えますし、これは「一幕」で済ませるべき問題ではないのでしょう。

もう一つは自分の体験したこと、そして体験しつつあることです。恐らく多くの人と同様、自分が受けた教育の経験が教育を考える上での第一想起になってしまっていたので須賀、それを相対化することの重要性を感じさせられました。今思えば、自分が通った2つの公立小学校*1の「ふつう」はかなり異なっていた気がします。恐らく、もっと異なる規範を持つ小学校もあったでしょう。それは認識しておくべきなのだと教えられました。

そして、次は子供についてです。率直に言って、同じ保育園に通っていても、クラス(学年)によって教育熱はかなり違っているように感じます。子供の学年を変更することはできませんが、この本を読んで、我が子によりよい教育機会を与えたいと具体的に考えたのは事実です。著者も「この書籍に手を伸ばす人たち」が「格差の現実を知って、自分の家族や身近な人たちに便益をもたらすかもしれ」ず、それは著者自身が「格差の再生産を強化していることになる」と苦悩を明かします。

ただ、そこは著者流に整理をつけることにしようと思います。この本に書いてある知見を、社会のために使っていくこと。そのためにはまず、(逆説的かもしれませんが)伝えていくことではないでしょうか。「門外不出の裏技」*2的に扱うのではなく、「問題提起の材料」として、広く読まれて欲しい本の一冊です。

 

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*1:登校に片道1時間かかる田舎から、政令市に転向しました

*2:そもそも大出版社から売り出された新書なわけですけど