書名の通り、吉田茂から小泉純一郎までの首相のうち17 人の外交(思想)について論じた本です。戦後日本外交史をリーダーの目線から追うことができて楽しかったで須賀、各章(各首相)をそれぞれ別の筆者が担当しているため、どうしても玉石混交感は否めませんでした。
国際政治上の環境とリーダーの外交思想は、言うまでもなく相互作用し合っているはずです。国際政治に影響を与えようとして繰り出される外交政策、その根っこにあるだろうリーダーの外交思想は、当時ないし過去の経験や認識の積み重ねによって形成されたものです。そこをどうとらまえるかが本書の醍醐味なのだと思いま須賀、そういった部分にまで言及されている章も多かった半面、例えば中曽根康弘の章など、首相の事績紹介で終わってしまっているものもありました。
個別の論点についての言及は避けま須賀、こうして通しで見てきて感じたのは、(日本をめぐる)国際環境は、この間何度か根本的に変転してきているのだという当たり前のことでした。
大日本帝国は戦争に敗れ、植民地も独立も失い、自国の平和を国際機構に委ねることに(少なくとも憲法上は)なった。と思ったら国際秩序をリードするはずの超大国同士が対立し、当てにしていた国際機構が機能不全に陥ってしまった。では仕方がないので、そこがちゃんと機能するようになるまでは一方の超大国に安全保障を委ねよう。それがまさに、吉田茂のスタンスだったと説明されます。
その超大国同士の対立構造は、強弱はありながらも国際環境の基調であり続け、日本のリーダーの多くもその構造を前提に(池田勇人の名がその典型として挙がります)、経済的に成長する自国の立ち位置振る舞いを模索していきます。
そして、その経済力が世界から最も注目された時期に、大前提と感じられていたその構造があっけなく崩れた。その時に首相の座にあったのは、吉田の直系の継承者とみなされた宮沢喜一でした。本書で彼は、PKO協力法によって「吉田路線を修繕した」との評価が与えられていましたが、上記の吉田のスタンスからすれば、「吉田路線の構想に戻った」と表現することもできるでしょう。さらに言えば、国連安保理においてより責任ある地位を占めようとする動きも、「吉田路線」の下に位置付けられるとすら言えるかもしれません。
国際環境が大きく転回するシーンは、これからも何度か見られることになるでしょう。その時により機敏に対応し、(自国のみならず、世界全体にとって)よりよい国際秩序を構築していくために重要なのは、構想力や状況規定の力なのだと思います。それは政治家や政治を志す人のみならず、社会全体で培っていくべきものではないでしょうか。それは少なくとも、隣国との対立を自らの政治的立場の強化に利用する姿とは180度異なるものであるはずです。
こちらも続けて読みました。小泉又次郎の話など、昔話が興味深かったです。