そんなにフィクションを読む方ではないので須賀、人物造形がしっかりしている作品に出会うと感心させられます。一人の筆者がたくさんの登場人物を、それぞれ違った価値観や行動様式を持つ存在として描いていき、その成長や変化を含めて「整合的に」表現できるのは本当にすごいと思います。
大げさに言えば、私にとって、そこがフィクションに対する一つの評価基準のようなところもあるので須賀、残念ながらこの小説はその点が非常に貧困に見えました。「ヤフコメ的な」ステレオタイプによる人物類型が二、三あるというのに尽きる感があり、社会的問題提起を云々する以前の問題だと思いました。ブックトークイベントもあったそうで須賀、この本で議論するのはちょっとしんどいですね。
著者のインタビューを読むと、(取材者を挑発してわざとそう答えているのでなければ)著者自身が頑強なステレオタイプを持っているらしいということも察せられ、宜なるかなという気にもさせられます。
不愉快だった(それも否定しませんが)という以上に、雑な作りの小説だなあという感想です。