かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『世界を動かした「偽書」の歴史』(中川右介)

世界を動かした「偽書」の歴史

世界を動かした「偽書」の歴史

古今東西の有名な偽書を紹介する本です。
ホロコーストを招いた『シオン賢者の議定書』、「ローマ皇帝コンスタンティヌスローマ教皇に全領土を寄進した」と記され、中世ヨーロッパの叙任権闘争などにも影響した『コンスタンティヌスの寄進状』、日本で言えば『陰謀の日本中世史』にも出てきた『東日流外三郡誌』などのほか、源義経チンギス・ハーン説やムー大陸まで紹介されており、読み物として楽しむことができました。
ただ一方、この本における「偽書」の定義が明確でない部分はあります。著者や時期などの成立過程を偽ったもの*1偽書であるというのがこの本の基本線であり、恐らく一般的な理解であろうかとも思うので須賀、真実であると称して虚偽の内容が書かれているもの*2偽書と呼んでいる箇所もあり、ちょっと気になりました。
とはいえ偽書の特徴、なんてものも指摘されていて興味深かったですね。最大のものは「原典は(多くの場合は権力者の陰謀によって)抹殺されており、現存するのは写本だけだ」という論法によって、主に自然科学的な検証を避けるために原典を頑なに示さないことだそうです。一次的な情報や資料に基づいて真贋を見極める。その点は、フェイクニュースが溢れる現代にも活用できる知的手法でしょう。

*1:仮に「成立過程の虚偽」としましょう

*2:こちらは「内容の虚偽」