- 作者: 清水克行
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 2013/10/24
- メディア: 単行本
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- 作者: 兵藤裕己
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2018/04/21
- メディア: 新書
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『足利尊氏と関東』は、足利尊氏・直義兄弟の生い立ちから室町幕府創設、2人の仲違いまでを人物物語風に紹介しています。後世言われたような「野望家」「逆臣」としてではなく、きっぷがよく人望があるがどこか厭世的な「情の人」尊氏と、旧来の秩序を重んじる緻密な(しかし合戦はさほど強くない)「理の人」直義の織りなす絶妙な(?)コンビネーション*1が描かれています。また、頼朝時代から活躍した源氏一門でありながら、執権北条氏の下での苦悩を味わってきた足利家当主代々の事績も語られており、その文脈を踏まえて兄弟の活躍を理解できるのは興味深い点です。
『後醍醐天皇』は彼の生涯を語りつつも、その政治構想や思想的背景、さらにはその後世への影響を論じている本です。極めてかいつまんで言えば、後醍醐天皇やそのブレーンらが目指したのは中国の宋王朝に倣った一君万民の政治であり、その身分秩序否定的なあり方*2は多くの反発を受けて長続きしないが、その思想は江戸時代の水戸学において南朝正統論から国体論に転化しつつ受け継がれ、「建武の中興」は幕末の志士達の理想となった…という筋で説明されています。
そんな2冊でありますので、ひっくるめて何かを語るというのはちょっと難しいのかもしれませんが、敢えて言うなら2人の出自には共通点があります。それは、どちらも元々家督相続が予定されておらず、兄の急逝によってその座に就いている点です。後醍醐天皇はそれゆえ、家格が必ずしも高くなく、それを重視しない(そして優秀な)ブレーンに恵まれた面がありますし、尊氏は代々続いた北条氏出身の母親を持たなかった*3ため、北条氏を敵に回すことへの抵抗感がさほど大きくなかったことが想像されるのです。家柄によって役割や出世が決まっていた時代、そうした「傍流のアウトサイダー」がキャスティングボードを握ったことは時局の推移に影響したでしょう。また、その足利氏に対抗できる存在(と後にみなされるようになった)新田氏に連なることにした徳川氏、それゆえの水戸光圀の南朝正統論…と辿っていくと、歴史解釈の後世におけるインパクトの大きさを実感させられます。それはまさに『陰謀の日本中世史』の議論でもあるのでしょうけども。