かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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前半のクライマックスにしては薄い脚本/「西郷どん」第十七話

第十七回「西郷入水」|NHK大河ドラマ『西郷どん』
西郷吉之助と月照らはなんとか薩摩に辿り着きますが、斉彬死後の藩政を掌握した斉興が幕府への恭順を示したため、2人には「日向送り」の沙汰が下ることになりました。日向送りとは、処刑を意味します。大久保正助が久光や斉興に直訴するなど奔走した結果、月照を斬る条件で吉之助の命は救われる約束となりましたが、2人は抱き合いながら錦江湾に身を投げてしまいました。
やはりなんと言うか、物語の中で2人が入水する理由がよく分かりませんでした。藩命には背けないということなのかもしれませんが、吉之助は妙にあきらめが早く、当初殉死を思いとどまらせたはずの月照も(自分の死を覚悟するのはともかくとして)「吉之助さんだけでも生きて」とは言いません。せめて船の中で月照に「大久保さんとの話は聞いていました。約束通りに私を斬って、斉彬の遺志を継いでほしい」とでも言わせれば、吉之助が「そんなことはできない!」と啖呵を切って2人の絆を感じさせるようなこともできたかもしれませんが、結局2人でしんみりして海に沈んでいくだけでした。
結局のところ、2人の心の交流の描写が不十分であった(と私は思う)ため、本当は西郷隆盛という人物の生涯を画する前半のクライマックスであるはずなのに、感情移入することがかなり難しかったです。「役者や演出でカバーしているが、いかんせん脚本が薄い」という趣旨の指摘をtwitterで見ましたが、少なくとも今回については全く同感です。
一方で瑛太鹿賀丈史の「新旧・大久保利通対決」はよかったですね。特に今回のやや情熱的な大久保正助と殿様の狡知に満ちた斉興の対峙は示唆するところが多かった気がします。もちろん斉興は吉之助が月照を斬ることはできないと見抜いていたでしょうし、もし本当にそうしたとしても、斉彬や近衛家と昵懇の僧だったわけですから、その人物を斬った吉之助もただでは済まなかったでしょう。若き大久保正助の短慮と言えなくもありませんが、「先輩の指導」を受けて成長していくきっかけになるのでしょうか。もしかしたら吉之助にも、そういうシーンがあるかもしれません。もう歴史的有名人の役は限られていますので、これから島で出会う誰かとかはあるかもしれませんね。