かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(松尾豊)

昨今随一のマジックワードである「人工知能」の入門書です。もう3年前に出された本ですので、人工知能の「古典」と言っていいのかもしれません。
人工知能に関する研究史と、その中で大きなブレイクスルーとなったディープラーニング、さらにはその後の技術的・社会的展開について平明に書かれています。要するにディープラーニングとは「どこがミソなのか自分で見つけ出す」ことなので須賀、それこそが人工知能研究における長年のネックでした。人間が持つ知識を全部教えれば、人間を超える人工知能なんてすぐにできてしまうような気がするものの、実は人間の知識を網羅的に記述することは非常に難しかった―。そうした試行錯誤は、著者もどこかで指摘していたように、単に人工知能だけでなく人間の知そのものをめぐるものであることが浮かび上がってくるのです。そもそも自分たちはどんな能力に拠って立っているのか。人工知能研究が、脳や認知に関する領域と親和性が高いのは、言われてみれば当然のことなのかもしれません。
あと、個人的に興味を持ったのは、俗っぽいかもしれませんが「人工知能が人類を支配する」的な議論を著者が検証・批判している部分です。著者が挙げるようなケースへの反論としては大体分かったつもりなので須賀、「支配する」という言葉をもうちょっと広く理解してもいいのではないかという気がしました。例えばですけど、コンサルや金融などの分野で強みを発揮する悪意的な(?)人工知能が、人間から仮想通貨で高額な「コンサル料」を要求し、経済的主体として人間に対する優位を広げていくようなことがもしあれば、それも人工知能による人類への経済的支配と言えなくないと思うんですよね。まあ当然、そもそものところで人工知能がお金を欲しがるような仕組みが必要でしょうし、この例とて空想の類でしかないで生姜、胸糞の悪い感じはします。
それはともかく、この流行語にかかっている魔法を分かりやすく解いてくれているという意味では、日進月歩のこの分野において「まだ」読む価値のある本ではないでしょうか。