日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか (講談社選書メチエ)
- 作者: 小谷賢
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/04/11
- メディア: 単行本
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この本の論旨は、「なぜ情報が活かされないのか」という副題に集約されています。米国の外交暗号を何度も解読するなど、陸軍を中心にインテリジェンス能力は(貧弱な陣容の割には)必ずしも低くなかったようで須賀、結果としてそれがうまく活用されなかった。その要因としては▽情報部門の立場が弱い上に縦割りで、専門家をちゃんと育てなかった▽作戦部門が自ら情報収集を行う例が多く、往々にして得た情報に結論ありきの評価がなされた(客観的に行うべき分析が捻じ曲げられた)▽そもそも国家や軍としての大戦略を欠いたため、情報部門に適切な情報要求がなされなかった(情報部門としては、どんな情報を収集・分析すればよいのか分からなかった)*1―といったことが挙げられています。
これは突き詰めれば、著者も示唆するように明治憲法下の国家体制が多元的であり、元老亡きあとはその統合を欠いたことの一側面と言えるのかもしれません。それこそ『元老』で言及されたような、(あくまでも個人資格である)元老の役割を(制度化された組織である)枢密院に担わせる伊藤博文の構想が実現していれば、大戦略に基づく情報要求とそのフィードバックというサイクルがより機能する契機になったのではないかと感じました。ちょっと話が飛び過ぎているかもしれませんが、インテリジェンスのあり方一つとっても、グランドデザインの欠如が目立った気がするんですよね。
本の話に戻りますと、具体的な陸海軍のスパイ活動から、インテリジェンスの基本的な考え方まで順序立てて説明されていて、(後半やや話が重複気味ではありましたが)よくまとまっていると思います。個人的には「インテリジェンス」という概念自体に疎かったもので、情報部門が生データ(インフォメーション)*2を突き合わせて分析評価を加えたものが情報(インテリジェンス)*3であり、これを以て先述したような政策サイドの情報要求に応え、次の意思決定*4につなげていく営為(インテリジェンス・サイクル)が基本であるといった初歩的なことから、実感を持って学ぶことができたことは非常に有益でした。
特にインフォメーションをインテリジェンスにするのって、まさに報道機関の基本動作なんですよね。SNSなど様々な情報発信が可能になった今こそ、そうした機能の意味を踏まえながら仕事をしていきたいものです。