かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『キラキラネームの大研究』(伊東ひとみ)

キラキラネームの大研究 (新潮新書)

キラキラネームの大研究 (新潮新書)

最早都市伝説の域に達したとも言える「光宙」(ぴかちゅう)くんを初めとする、所謂キラキラネームの虚実に迫りつつ、その背景にまで論及した本です。
割とカジュアルなノリのタイトルから「最近のバカ親はこんなDQNネームをつけちゃうんですねプププ」的なネタ本かと思いきや、さにあらず。言うまでもなくもともとは中国語の文字であった漢字と「やまとことば」のせめぎ合いや、開国以降の近代化(≒西洋化)、さらには戦後の当用漢字実施*1などの国語改革といった日本語における漢字の歴史を追いながら、その中に難読名の問題を位置づけています。と言うと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、実は難読名(を付けること)自体にも長い歴史があり、吉田兼好本居宣長が当時のそうしたご時勢を批判的に捉えた文章も残されています。しかし著者によると、それらは漢学的な教養に裏付けられているか否かという点で、現代のキラキラネームとは質的に異なっている。明治維新と戦後の国語改革を経て漢字がより大衆化し、またそのバックグラウンドが希薄化したことで、言ってしまえば世代を追うごとに漢字の意味への関心が失われてきた。そしてそれが、キラキラネームが「珍しい例」としてでなく広汎な現象として立ち現われている深層にある、著者はそう論じています。
日本語として、さらには中国語としての「言霊」が宿ってきた漢字が稲刈りのように刈り取られて、表層的なイメージやフィーリング重視の「感字」になってきてしまってはいないか。私はそこまで悲観的・感傷的でもありませんで、長男の通う保育園にそれらしき名前の子がいても「好きにすればいいんじゃないか」というか、名前の流行り廃りも常ならぬものだなあと我が子を見ても思うわけで須賀、「言霊」と呼ぶのがいいのかはともかく、漢字文化の豊かさというのも一方では感じております。
この本を読んでいて、中学の頃に「石井式」の『漢字の覚え方』で勉強したのを思い出しました。ごくごく大まかに言うと、部首が意味、旁が音を表していて、簡略化された字でも元々の形を知り、他の漢字とのつながりで理解すれば、初見の漢字でも大体の意味と読み方を推察することができるし、相互に関連付けて理解することができる―というお話だったと思います。石井式の幼児教育『石井式国語教育研究会』や、石井式漢字教育オフィシャルサイト 認定実践園・育み能力開発教室・課外教室・教材のご紹介といったあたりのサイトは関連と思われま須賀、まさにこれは、この本でいうところの国語改革前の漢字のあり方なんですよね。他にも、漢語由来の語彙が多い韓国・朝鮮語の学習においても、特定の漢字がハングルのどんな綴りに対応するのかを知っておくと便利、なんだそうですよ(笑)
初めの「光宙」くんからは大分話が逸れてしまいましたが、意外にも漢字文化の豊かさや歴史について教えてくれる好著でありました。てか、さすがにDQNネームとして騒がれている光宙(ピカチュー)の親です。私と妻で... - Yahoo!知恵袋は釣りですよねwww

*1:煩雑すぎる漢字を整理して教育の民主化を図ろうというのがお題目であったそうで須賀、日本語のローマ字表記化を見据えた「いる漢字」という意味合いでもあったとか